出汁の王国・鹿児島プロジェクトの特集記事
トップ > 『受け継がれ、進化する、伝統と手作業の味。』

『受け継がれ、進化する、伝統と手作業の味。』

的場水産社長の写真

 

的場水産株式会社 代表取締役 的場信也

インタビュー:2015年2月25日

 

鹿児島県薩摩半島の南西部の東シナ海を臨む港町。全国有数のカツオの水揚げを誇り、日本一の鰹節産地としてその名を知られる枕崎。その製法はこの地で三百年以上も守り続けられた。”本物の味を正直に”届ける的場水産株式会社。鰹節と向き合い続ける信念とそれを支える手技の”賜物”について、また出汁関連の取り組みについて、同社的場信也社長にお話を伺った。

 

複雑な製造工程、そのほとんどは職人の”手”作業で支えられている。

 

ーこんにちは。本日はよろしくお願いします。事前に鰹節の製造工程を見せていただきました。実に数多くの工程と職人さんの技術によって、その品質と伝統がまもられているのを感じました。現在に至るまでの歴史や市場動向の推移も含めて、鰹節を取り巻く環境と、その歴史を継承し、伝承する役割を担っている御社についていろいろとお話を伺いたいと思います。まずは、御社創業当時のお話を教えて下さい。

創業から来年で60年が経ちます。私の祖父が創業した頃の枕崎は、枕崎の人口も今よりもずっと多く、一番多かった時で35,000人ほどだったそうです。昭和33年頃でしょうか。

 

ーその頃は鰹節製造をされている工場は多かったんでしょうか。

今よりも多かったですね。創業当時の詳細なことは分かりませんが、一番工場が多かった頃で約150社ほどありましたし、個人でされている事業者さんも今よりずっと多くいらっしゃったようですよ。

 

ー今は何軒くらいの工場が製造をされていますか。

今はだいたい50社ほどじゃないでしょうか。

 

ー鰹節製造を続けてらっしゃる工場と廃業された工場の差はどういったところに理由があったんでしょうか。

見ていただいた通り、鰹節の製造には大変に複雑な工程が必要です。しかもかつてはほとんどが職人の手作業だったわけですし、後継者が育たなかったという要因は大きいと思いますね。個人でされていた方の多くが廃業されたことも要因として大きいと思います。そして、時代の流れとともに効率化を目指して機械化も進みましたので、現在枕崎の工場は少なくはなりましたが、全体の生産量としては増えているんです。ただ、先ほど見ていただいた「本枯節」を作る工場はどんどん少なくなっていますね。

 的場水産の生切りの様子の写真

生切りの様子

 

ー「本枯節」の作り方というのは、創業当初から変わっていないんでしょうか。

昔からかわってないですね。鹿児島ではいわゆる「はだか節」「本枯節」がよく売れるんです。もちろん「削り節」はたくさん出回りますけどね。一般家庭で鰹節を買ってきて削って使うものは、「はだか節」「本枯節」で、お土産として贈られるものも同じです。

 的場水産のかつお節の写真

左から、本枯節・はだか節・荒節

 

ー「本枯節」の製造をしていない工場もあるんでしょうか。

あります。そういった工場は「あら節」専門でされているところがほとんどで、今は枕崎のほとんどの工場が「あら節」主体の体制になってきているんです。枕崎で「本枯節」を作っている工場は、おそらく20社ほどじゃないでしょうか。

枕崎でも半分以下になってきているんです。

 

ー「本枯節」を作っているのは、枕崎だけなんですか。

違います。指宿市山川でも作っています。生産量で見れば指宿市山川の方が多いんです。

 

ー山川町は県外出身者が多いと聞いたことがありますが。

そうですね。四国の高知県の方が多いですね。指宿市山川が3割と枕崎市が4割で全国の生産量の7割を占めています。あとは静岡県の焼津市を含めて全国の生産量の9割を占めているんです。

 

ー焼津でも「本枯節」を作っているんでしょうか。

一部で作ってますが、割合はだいぶ少ないですね。鰹節の生産量全体の中では「本枯節」の割合は1割もありあません。

 

ー鰹節自体の消費量の変化は感じることはありますか。

一般家庭での消費としては伸び悩んでいる状況がありますが、飲食店やめんつゆやふりかけ等の加工商品として特に手軽に使える出汁パックの需要は伸びてきています。鰹節がなくなるということはないんじゃないですかね。形を変えて最終的な消費量が増えていく要素というのは大きいと感じています。

 

「手切りの美味さ」にこだわる。

 

ー先ほど見せていただいた製法は、産地によって違いがありますか。

基本的には同じ製法です。ただ、たくさんある工程それぞれのやり方には違いがありますね。切り方や煮込みの時間や温度調節の仕方などです。おもしろいことに、作られた工場が違えば、すべて味が違います。その味の好みでお客さんがついてくださっているんです。例えば、ある料亭では、昔から同じ工場で作られた鰹節を使ってる。料理人の方も味のプロですから、微妙な加減にこだわって、鰹節を選んでいるんだと思いますよ。

 的場水産の本枯節断面の写真

本枯節の断面

 

 

ー先ほど「機械化が進んだ」というお話がありましたが、機械製造と手作業での味の差はありますか。

味は違うと思いますね。手切りで1本ずつじっくりと作った方が味は美味しいとおもいますよ。でも手作業で作るということは生産量にも限界があります。その点は弊社のこだわりの部分でもあります。「手切りの美味さ」が弊社の特徴ですね。

 

ー他にはどのような部分にこだわっていらっしゃいますか。

原料でしょうか。脂肪分が少なく鮮度がいいものを仕入れるようにしていますね。商品の味は原料に左右される部分が大きいです。7〜8割は原料で決まると言ってもいいんじゃないでしょうか。

的場水産本社工場の写真

本社工場外観

ー最後になりますが、今後予定されている取り組み等があれば教えて下さい。

そうですね、あくまでも鰹節の製造工場ではありますが、様々な形でみなさんのお口に入る食品ですから、美味しいものを作り続けたいという思いが一番強いですね。他にも、積極的に加工品や原料としての需要も増やしていけるように、鰹節の価値を高める動きができたらいいと思っています。

 

ー本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

 

的場水産:http://www.futamaru.jp/

 

インタビュー後記:

鰹節の製造工程はいくつにも分かれていて、それぞれの技を持った職人たちがその手技によって、各工程を捌いている。伝え聞いたとおりに「手作り」だ。

そして、今もなお職人の”手”によって伝統の味は進化し続けている。

職人たちの実直な姿勢と懸命の努力が詰まっているのだ。食さずとも感じる深みに触れた。

 

インタビュアー 井上秀幸

ライター 西田将之

コメントは受け付けていません。

ページトップへ