出汁の王国・鹿児島プロジェクトの特集記事
トップ > 『世代を超えて旅する阿久根の味。』

『世代を超えて旅する阿久根の味。』

下園薩男商店三代目の写真

株式会社下園薩男商店 三代目下園薩男・常務取締役 下園正博

インタビュー:2015年2月12日

鹿児島市から国道3号線を北上すると、のどかな風景の中に堂々とした大きな大きな「下園薩男商店」の文字が飛び込んでくる。信念そのものとも受け取れるその佇まいは、70年も前から受け継がれてきた阿久根の水産加工の歴史そのもののようにも感じられる。その歴史をその手に受け継ぐ、「旅する丸干し」を生み出した三代目・下園正博さんに、これまでの歩み・旅する丸干し・これからの展望を伺った。

戦争から戻るとすぐトラックを購入。
販路拡大のため、田舎道を福岡・大阪・東京へ─。
黎明期から阿久根の味を支え続ける老舗。

ーこんにちは。今日はよろしくお願いします。
早速ですが、まず「下園薩男商店」の創業について教えて下さい。

昭和14年で、祖父の下園薩男が創業しました。当時、阿久根界隈の方々が出稼ぎのような形で魚が豊富に獲れる九州北部の方へ出向き、魚を干物にして丸干しするという技を覚えてきたそうです。
帰郷後、地元でもイワシが獲れたことから、阿久根でも丸干しが始まったのではないかと伝え聞いています。

下園薩男商店創業時の写真

創業当時のトラック

ーこの地域で獲れる魚種はどんなものがありますか?

阿久根の魚種は多品種ですね。イワシが多く獲れて、鯛も獲れていましたし、阿久根の駅が漁港から近かったこともあり、鉄道に魚を載せて東京に送るということで栄えた漁港でした。現在でも東京の水産関係者は「阿久根」を知ってる人が多いですよ。
祖父は戦争から戻るとすぐにトラックを購入して、舗装もされていない田舎道を福岡・大阪・東京まで魚を売りに行き、販路を広げていったそうです。 それに続いた形で、阿久根には地元だけではなく大阪・東京との取り引きがある業者さんがほとんどです。

ー丸干し自体は全国で作られているんでしょうか?

有名なのは高知・佐賀・長崎・大分ですね。ただその中でも「うるめの目ヌキ」と言われる、魚体が小さくて上乾と言われるカリカリに乾燥させたものは、ほぼ高知と鹿児島でしか作っていないですね。 南方の魚は脂が少ない特徴があります。かつお節や丸干しのように長く乾燥させる商品には脂が少ない方が向いているんです。立地的にも阿久根は干物作りに適しています。

ー丸干しの材料は何ですか?

丸干しは魚と塩でつくりますが、うちの特徴としては、獲れたその日に串を刺して干してしまいます。干し上がりに3日ほどかかりますが、凍結後の加工ではなく、干し上がってから冷凍保存をしています。これによって冷凍1回で完成するので、見た目もきれいですし、味も美味しいですよ。他の丸干し屋さんは10〜20名程の規模でされているようですが、うちは100名近くのスタッフがいて、1度に大量に作れることも大きく影響していますね。

下園薩男商店の丸干し製造工程の写真

製造工程の丸干し

ー丸干しの賞味期限はどれくらいですか?

冷凍庫なら2年は大丈夫です。うるめの獲れる時期は6月から10月の頃ですが、魚体の小さいものは初めの2〜3週間くらいしか獲れません。ですから、その時期に獲れた魚で1年間の材料を賄っています。うるめの目貫きに関しては、より小さく、より硬いものが高品質とされています。お茶漬けにほぐして入れたりも美味しいですが、基本的にはそのものの味を楽しむという食材ですね。

ーうるめの漁獲量のピークはいつ頃なんでしょうか?

うちが創業の頃は近隣に同業者さんが60軒ほどありましたが、今は15軒です。 おそらく昭和15年前後が一番多く獲れてたんじゃないですかね?かつては品質に関わらずどんなものでも売れていたようですから。 ただ、周りを見てみると事業をやめられるところも多いです。全体の売上は下がっているでしょうね。

逆境の中からアイディアを結集し生み出されたヒット商品。

下園薩男商店の旅する丸干しの写真

旅する丸干しシリーズ

ご購入はコチラ

ー旅する丸干しについて

築地近くの水産関連会社にいた頃、量販店の売り場に立つ機会が何度もあり、丸干しを買う方は限られていて、高齢の方が多く、買われる方は何パックも買われましたが、売り場での商品の回転が少ないため、品揃えは充実しているとは言えない状況でした。「どんどん売れなくなっていくな」と感じていました。そういう経験から「なんとかしないと!」と思っていました。

ーオイル漬けになる前のアイデアは、どんなものがありましたか?

最初は、ラベルのデザインを変えたり、レンジで温めるだけで食べられるものを作ったり、焼いてあってそのまま食べられる等、簡便性を求める風潮がありましたし、バイヤーさんからのそういった要望もありました。展示会に出品したら好評でしたが、実際にはあまり売れませんでしたね。売り場を見てみると焼いてないものの方が売れていたんです。丸干しを購入するお客さんは自分で手間暇をかけて、焼きたてを食べたい人がほとんどだと気付きました。
また、丸干しを食べていない若い人は、量販店の鮮魚売り場を素通りしますし、購買層を増やすには「若い人に見てもらえる売り場じゃないといけない」と思いました。「若い人が手に取ってくれるような売り場はどこか?」と鹿児島の店舗さんを考えた時に、マルヤガーデンズさんがあって、「マルヤガーデンズさんに置いてもらえるような商品を作ろう」という経緯です。 最初は干物自体がダメかな?と思いましたが、関東では干物専門の飲食店も人気でした。見せ方次第でなんとかなるのではと思い、和風の味付けを洋風にしてみたらおもしろいんじゃないかというのがあって、自分がサッカーやヨーロッパが好きだったこともあり、オイルサーディンで試作をしてみたらなかなか美味しくて、スーパーでの催事で出してみたところ予想以上に売れましたし、若い人も買ってくれて、「これはいける!」と思いました。 ちなみに商品名は「丸干しのオイルサーディン」でした。 その後、様々な御縁と出会いの中でたくさんの方に協力をいただきながら改良を重ねて完成したんです。 賞をいただいた効果もあり、予想以上の売れ行きでありがたかったです。

★2013年、鹿児島県水産物品評会で最高位の農林水産大臣賞受賞。

★2014年、農林水産大臣賞の受賞品の中から天皇杯受賞。

ースタンドパック(少量パック)の売れ行きはどうですか?

店舗さんによって違います。マルヤガーデンズさんや東急ハンズさんは、ビンよりスタンドパックの方が売れるんですけど、阿久根駅とかではビンの方が売れます。しっかりしたお土産か、ちょっとした手土産か、でお客さんによって変わるんだと思います。

ー開発の苦労話はありますか?

味の改良は何度もしましたが、楽しかったので、苦労した感覚はあまりなかったですね。楽しみながら趣味でやってるような感覚です。

ー味に関してはいろんな方の協力があったんですか?

郷中塾との出会いが大きかったですね。必要を感じたタイミングでたくさんの方に出会うことができて協力していただきました。ですから「どうしよう・・」って悩む前に手助けしてもらった感じです。ありがたかったです。運が良かっただけかもしれませんけど(笑)。

★郷中塾:かごしま産業おこし郷中塾(リンクあり)

ーとはいえ食べ物なので、「味」が一番大事だと思います。
最終的に4種類の味に行き着くまではどんな過程でしたか?

最初は自分がトマト味・カレー味・バジル風味を考えてましたが、「どうせなら“世界の国をイメージした味”にしてみたら?」とアドバイスをいただきました。「それおもしろいですね!」となって、イタリア味とかギリシャ味とか20カ国くらいアイデアが出ました。各国の名物リストから入手しやすい素材を選び、人気が出そうなヨーロッパ系の南イタリアとプロバンスはすぐ決まって。自分が学生時代からスパイスから作ってたほどのカレー好きだったので、「カレーは絶対いれたい」ということでマドラス風ができました。そして「出発点である阿久根はいれなきゃ!」ということで阿久根プレーンができて、4つの味ができあがりました。

海外展開も視野に、日本市場で更なる足場固めを。

ー今後、展開が増える可能性もありますか?

そうですね。ミラノ風を出したいですけど、原料の問題もあってまだ検討中です。でもミラノ風は早く出したいです。

ーちなみにヨーロッパには干物の輸出はできますか?

やっぱり輸出審査基準が厳しくなかなか難しいかなという印象ですね。

ー海外向けには展開を考えられてますか?

アメリカの日系人向けのスーパーには丸干しを出したり、台湾の高級スーパーにはうちのししゃもも並んでますが、量は少ないです。一般の方が日常的に食べるものではないので。
海外で見てみると成功しているのは、お菓子メーカーにしても大企業ばっかりです。日本である程度マーケティングノウハウもあり、戦略的にもしっかりしてる企業さんはうまくされている印象です。なので、海外へというよりは,まずは日本でしっかりできるようになってから海外ですかね。 日本でイタリアのオイルサーディンと聞けば魅力的ですが、ロシア産と聞けば、「どうかな」という感じだと思うんです。日本人がカリフォルニアロールを食べるような(笑)。

ー次の展開が楽しみですね。

海老の出汁の効いた、焼き海老のパスタソースを次は発売したいですね。ミラノ風なら「だろうな」となると思うので、驚きを狙いたいですね。 商品名は「旅する焼き海老」です。いろんな方の意見がありましたが、「旅する丸干し」の世界観をもっと広げたい思いもあったので、県外での認知はまだまだですから、1つのカテゴリーを強化していきたいですね。 パスタソースとしてだけではなく、いろんな使い方があるんですけど、パスタソースと言えば、お客さんはイメージがしやすいと思ってます。「焼き海老ソース」と言ってもピンと来ないと思いますから。

ー原料にはどんなものがありますか?

まず「大葉のジェノベーゼ風」です。これは阿久根で獲れた大葉を使っています。そして「ウニ醤」といって、ウニとボラの魚醤を使ったペペロンチーノ風オイルソースです。もうひとつは、トマトベースで鹿児島の醤油を使った「トマトソース」です。ベースはすべて焼き海老です。
鹿児島ではお雑煮に必ずと言って良いほど、焼エビを入れますよね?私は全国共通でこうだと思っていたのですが、これは鹿児島独自の食文化だと教えていただいたんです。そして調べてみたらテレビの企画でどの県のお雑煮が美味しかというので、鹿児島の焼エビのお雑煮が1位にもなっていたんです。
海老の出汁が、鹿児島の食文化が「美味しい」んだと実感しました。阿久根でも海老は獲れますし、弊社ではかつて料亭に卸していた経緯もあって製造設備もありますし、土地の文化を守ることにもつながります。しかも、うるめ漁師さんが海老も穫っているんですよ。

下園薩男商店外観の写真

本社工場外観

ー「旅する丸干し」の余韻も残る中、次なる展開も非常に楽しみですね。
今日はありがとうございました!

楽しみにしていて下さい。ありがとうございました。

下園薩男商店の企業サイトはコチラ

下園薩男商店の旅する丸干しが買える「南国食材商店」はコチラ

インタビュー後記: インタビュー直後、たまたま招待された酒席にて「旅する丸干し」を目にし、思わず「あっ。」と声をあげてしまうようなことがあった。雑誌や新聞記事、そしてもちろん店頭でも紹介されることが多くなり、着実にヒット商品となりつつあるのを感じる。最近では、「旅する丸干し」を題材にした漫画作品も話題となった。 ただしこれらは決して偶然の賜物ではなく、逆境をはねのけるための”アイディアの種”が実を結んだ結果であることを知った。 また一つ、県外の友人に全力で紹介したい「鹿児島自慢」が増えた。

インタビュアー 井上秀幸

ライター 西田将之

コメントは受け付けていません。

ページトップへ