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『消費者と一緒に広めたい、香り高い「かごしま茶ブランド」』

鹿児島製茶社長の写真

鹿児島製茶株式会社 代表取締役社長 森裕之

インタビュー:2015年3月12日

鹿児島市南栄の鹿児島県茶業団地、新茶の季節には周辺一帯が爽やかなお茶の香りに包まれる
通称”お茶団地”と呼ばれる一角に「お茶の美老園」のブランドで、鹿児島県民に広く親しまれている鹿児島製茶の本社を訪ねた。代表銘茶「さつまほまれ」の作り手として、またご自身も”日本茶インストラクター”としてお茶の普及促進に取り組まれている森裕之さんにお茶の歴史と展望、思い描く出汁との関わりについてお話を伺いました。

社歴130年。
「誠実奉仕」の精神でお届けする、季節の香り。

ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、130年ほどの社歴の中で
創業当時のお話と、どのような形でお茶の製造販売に取り組んでこられたのか
教えていただけますか。

はい、初代が明治14年に、宮崎県都城市で創業したと聞いております。その後、曾祖父と祖父が鹿児島に移り鹿児島での創業が明治36年のことです。戦争を経て多くの記録が焼失しましたが、都城では、仕入れたお茶を工場で加工し販売していた、という記録があります。都城よりも鹿児島の方がお茶の生産量は多かったため、鹿児島に移って、茶業を営んだと聞いております。
初めは、「お茶の美老園」としてお茶の小売り卸しをするようになり、戦後になり卸しを拡充するために鹿児島製茶という会社を設立しました。以後、小売りを「お茶の美老園」、そして卸しを鹿児島製茶という組織形態で運営しています。
仕入れは、昔から変わらず、農家さんからの仕入れ販売と、市場からの仕入れ販売という2つのルートです。美老園での小売り、県内外の茶販売店への仕上茶の卸し、また、県外の問屋さんへの荒茶の卸しも行っており、私が五代目となります。

ー“荒茶”というのはどういったお茶ですか?

荒茶というのは、農家さんが栽培しているお茶を摘み取って、蒸して、揉んで乾燥したものが荒茶といいます。生茶のままでは萎れてしまうので、農家さんの畑の近くにある荒茶工場で蒸して、揉んで乾燥したものを仕入れる形です。荒茶を見栄え良く整え、焙煎することでお客様が飲む一般的な仕上茶(=商品)になります。

ー直接消費者にお届けする場合と卸しの場合で共通しているこだわりはどういったところでしょうか。

先々代が常々言っていた言葉に「誠実奉仕」がありまして、「正直にお客様に尽くし、お客様に喜んでもらえるものを提供する」ということが、小売りにも卸しにも一貫してこだわっている点です。
お茶の品質に関しては「旬のお茶、薫り高いお茶をお客様に提供する」ということを徹底しています。お茶は4月から5月中旬までの一番茶、続いて二番茶・三番茶と摘まれますが、一番茶でもおいしい時期は産地によってごく一部の期間です。それが旬という言葉で表現されるわけですが、「この産地はこの時期がいい」というタイミングがあります。そこをしっかり見極めて、輝きがあって香りが強いお茶を仕入れる、そしてお客様が喜ぶ味わい香りに仕上げるということを常に考えています。

ー県内でも旬の差があるんですか?

はい。早場産地・中間産地・遅場産地がありまして、例えば県内で一番早い産地が種子島・屋久島です。3月中下旬から採れ始め4月の頭に最盛期を迎えます。一方で、県内の遅いところでは5月にならないとお茶が採れないという産地もあります。
産地ごとに気象条件と地理的環境、品種で採れる時期は違います。

ー地理的環境という言葉がありました。鹿児島はお茶の栽培に適しているんですか?

そうです。お茶自体が亜熱帯地域の植物なので温かい方が適していますが、平均気温が高すぎると逆に品質はよくないんです。というのが、冬場にお茶が休眠する時期があった方が4月の新茶の時期に美味しい芽が出ます。ですから沖縄ではあまり美味しいお茶は採れません。鹿児島だと冬もある程度は寒いのでしっかり休眠ができて美味しい芽が出ます。逆に寒すぎる地域だと霜で新芽がダメージを受けますから美味しいお茶ができにくいので、鹿児島はお茶作りには恵まれている環境です。

ー寒さと温かさの両方に恵まれているということなんですね。おもしろいですね。 様々な商品銘柄を展開されていますが、代表的な人気銘柄、また積極的に取り扱っていきたい銘柄がありましたら教えて下さい。

商標を登録している「さつまほまれ」という茶名がありまして、その中でも一番売れ筋なのが「特選鳳苑(ほうえん)」というお茶です。鹿児島でも美味しいとされる産地のお茶を選りすぐって作っています。お茶の品種も鹿児島は豊富にありますので、それぞれの品種の特徴に合わせた焙煎・香り・味をバランスよくブレンドした自信の銘柄です。他にも「さつまほまれ」のもうワンランク上の「鳳秀(ほうしゅう)」という銘柄も人気があります。また、デパート等でよく売れているのが別名「詰め放題のお茶」と呼ばれている、量り売りのお茶ですね。「詰め放題のお茶」は芳ばしい香味が特徴的でリーズナブルで美味しいと好評ですね。
現在深蒸し茶が流行っており、鹿児島の生産現場でもその傾向にあります。ただ山間の香りのよいお茶は香りを残す本来の普通蒸しにした方がお茶の特徴が活きると考え、先代が奥霧島茶という商品を作りました。
お茶本来の良さ・素材そのものの香りを楽しむ、奥霧島茶をもっと普及させたいと思っています。

鹿児島製茶の茶葉の写真

検品中の茶葉

ーお茶は基本的にブレンドして作るものなんですか。
単一品種で出回る銘柄はないんでしょうか?

一つの品種で作られるお茶も弊社にもありますし、単一品種や単一圃場のお茶を販売されているお店もあります。ただ、味や香りに深みを出したい、煎出したとき緑色が濃く出したい時など、お店独自のブレンドをすることによって、まろやかだけどコクがあるというような香味が出せます。単一品種の場合は、原料そのものによっては特徴あるお茶もできますが、どちらかというとシンプルで単調な味になる傾向があるので、弊社の場合は思い描く香味を追求するためブレンドをしての製造が主体になりますね。

ー深さ・まろやかさという言葉が出てきましたが、森さんの考えるお茶の味の決め手は何ですか?どういったところを大事にされていますか?「甘み」も関係がありますか?

まずは、やはり香りがあるお茶ですね。 新しい品種の「さえみどり」だと甘みのアミノ酸の含有量が高いですが、コク味が少なくて物足りないって思ってしまう時があります。渋みのあるタンニン量が多い品種や香り豊かな品種や違う産地のものなどをブレンドして香味のバランスをとったりしますね。

鹿児島製茶の茶葉検査の写真

茶葉の検品の様子

ー次に力を入れたい取り組みや商品はおありですか?

はい、今「サツマルシェ」という、デザイン性があって手軽に飲めるティーバッグを発売しています。これまではそれほどお茶を飲む習慣のなかった方や、お茶をギフトとして贈ったことのない方でも、”飲んでみたい”需要を喚起させて、もっとお茶に親しんで頂きたいです。「サツマルシェ」はティーバッグですが、バリエーションを増やしたり、ティーバッグ以外の形を作ったりしてもよいと思います。
今和食が見直されておりますが、傍らにあるお茶がより多く飲まれているという印象は受けません。鹿児島産の美味しいお茶を全国のみなさんにもっと知って頂きたいですね。 鹿児島のお茶の消費量は、平均より少し多いですが、静岡と比べるとまだまだ少ないです。鹿児島の人が美味しいお茶をたくさん飲んで、鹿児島のお茶に自信を持って県外の人に勧められるような取り組みをしていきたいと思っています。県外の方にも鹿児島のお茶を飲んでいただければ、あまりお茶を飲んでいない方でも、コクがあって緑色もキレイな鹿児島茶のファンになっていただけると確信しております。

ー次に、出汁プロへの参加の経緯や思いを教えて頂けないでしょうか?

はい。和食が注目を浴びているという部分で、和食と一緒に対になっているのがお茶だと思います。まずはそのお茶をしっかり日本人そして世界の人々に知ってもらうということ。そして、出汁茶漬けなどでもお茶を加えることによって味がまた引き締まったり、コクが出てきたりという作用が分かってきたので、是非、料理を含めて生活の中にお茶を楽しむ機会を増やしていきたいと思っています。 参画いただいている梛木先生にも「茶粥はいいよ」と勧められていますので、やっぱりお茶という鹿児島の特産品をもっとPRしたいですし、普通に飲むお茶以外のコラボレーションができる可能性に興味を持って参加しています。

ー今後の展望・ご希望も含めて、「出汁の王国・鹿児島」プロジェクトとの関わりにどのようなイメージをお持ちですか?

そうですね、ゆくゆくは和食と一緒に日本茶と言う形でお茶が広まることを目標としていますが、その一歩前、出汁とお茶が一緒になった商品も手始めに作っていきたいなと思っています。
昆布茶というお茶がありますが、昆布茶には実際はお茶が入っていません。本当のお茶と昆布や鰹の出汁とうまく組み合わせたうまみたっぷりのお茶もできると思うので、商品化したいと思っています。

消費者やスタッフの「声」から広がる、鹿児島茶の更なる可能性。

ー御社での商品開発・新しいものを作ろうというキッカケは消費者からの要望に応える形もあると思いますが、商品開発にはどういったプロセスがありますか?

お客様からの声から形で作り出す川下側からパターンと、産地や品種や栽培製造方法など作り手の川上側から作り出すパターン、両方あります。「サツマルシェ」を開発したのは、お茶の袋詰め包装などを行うスタッフや接客販売や営業をするスタッフたちでした。お客様と作り手の間を取り持ち、そして当社のお茶をよく買う女性社員自身が「自分たちが欲しい」というものを、自分たちでデザイン設計し、販売の仕方まで考えたので、自信をもって販売しています。
世界緑茶コンテストで最高金賞を受賞したほか、各種コンクールで評価いただき受賞されましたから、今後は「任せて作る」ということもやりたいと思っています。

ーちなみにサツマルシェはアイデアから発売開始までどれくらいの期間があったんでしょうか?

およそ一年です。

ー一番大変なのは味を決める部分ですか?

新商品だと特にそうです。「桜島小みかん茶」ですと、何が合うのか、鹿児島の特産品で色々ブレンドを試作するところから始まり、桜島小みかんに行き着き、桜島小みかんをどのお茶とどのくらいの割合でブレンドするのかなどを試行錯誤するなどかなり時間はかかりました。

ー頻繁にアイデア会議のようなことをされているんでしょうか?

お店・会社では月ごとの営業会議はありますが、具体的に「こういった商品をいつまでに開発する」という会議は定期的にはしておりません。会社からのトップダウンの商品開発の指示のほかに、各お店や営業担当が自分たちの販売したい商品・販売方法を考え、それらを企画としてあげることが最近増えてきました。今後はクロスオーバー的な形でそれぞれの部署から代表を出して作り上げるなど、”チーム”で作り上げる、みんなの思い入れのより強い商品作りを行っていきたいと思っています。

ー思い入れ、大事ですね。受賞の効果は大きかったですか?

そうですね、新聞に載ったりテレビに出たりすることでお客様に知っていただくことはもちろん、取材を受けたり自分たちでプレゼンすることで、開発チームメンバーそれぞれの成長にもつながっていると思います。普段お茶を買われなかった方が繰り返しご購入いただくなど、非常にありがたいです。

ー先ほど出汁とお茶のコラボ商品について触れられました。お茶漬けと日本茶の関係性と、普及を進めるにあたっての展望がおありでしたら教えてください。

永谷園というふりかけで知られている食品メーカーさんがありますよね。永谷園さんの先祖は現在の煎茶の製法を開発した永谷宗円なんですよ。現在の日本茶を開発した子孫の方が事業領域を広げ、お茶漬けなど多岐にわたる製品を開発し、販売しているということです。弊社としても同じように事業選択の可能性は広く持っていたいと思います。かごしま茶を前面に押し出したお茶漬けも世界に展開するのも面白いと思いますね。

ー普通に飲むお茶と、お茶漬けに入れるお茶の違いはありますか?

そうですね、これまでの試作を通して、お茶の旨味が強過ぎたり焙煎が強過ぎたりすると、お茶漬けには合わないんじゃないかと思います。具材にもよると思いますが、相性のいいお茶をもっと工夫して探さないといけないと思いますね。

鹿児島製茶のお茶の写真

ー鹿児島茶のお茶漬けにポテンシャルを感じられますか?

はい。鹿児島は産地も色々ありますし、品種もたくさんあり採れる時期が長く、回数も多いという多様性が大きい上に、農家さんとの協力関係も非常に良い産地なんです。いろんな食材と組み合わせられるのが鹿児島のお茶だと思います。紅茶も製造していますし、紅茶でお茶付けというのも面白いと思います(笑)

ー静岡のお茶と比べても鹿児島茶の多様性の方が大きいということでしょうか?

そうですね。静岡だと「やぶきた品種」がほとんどです。鹿児島の場合は「やぶきた品種」も多いですが、それでも4割弱です。栽培方法も旨味が出るような”かぶせ”という手法で、直射日光を遮ってお茶が持っているアミノ酸がカテキンに変わるのを防ぎます。アミノ酸が多いうまみの強いお茶が鹿児島では主流ですが、”かぶせ”ない作りかたもできます。”かぶせ”をしないことで渋みがやや強いが香り高いお茶を鹿児島でも作る方もいらっしゃいます。また鹿児島では機械化が進んでいるため、一番茶だけでなくリーズナブルな二番茶・三番茶も製造しますし、それらは日差しをよく浴びているのでカテキンが多く渋みが多いお茶もできます。

ー鹿児島で作られているお茶の品種はどれくらいあるんですか?

奨励品種というのが10種類あります。そのほかに優良品種と呼ばれるものが8種類ありますし、病気や虫に強い特徴を持っていたり、香りに特徴がある品種など新しい品種がいくつも生まれてきており、茶市場では30種類くらいは上場されているかと思います。

鹿児島製茶の茶葉の写真

製造工程の茶葉

鹿児島茶を通して、全国の人々が心に潤いを感じてくれたら嬉しい。

ー最近はニューヨークでもお茶が広まっていると聞きますが、
海外展開についてはどうお考えですか?

海外展開の方は力を入れ始めていまして、現地の方にお手伝いをもらいながら、海外の展示会に行って、お客様にフォローしていただいたりしています。今、アメリカへの輸出が増えてきていますが、もっと鹿児島茶を使ってもらえるように直接販売する取り組みを続けている段階ですね。

ー東京オリンピックに向けては、お茶には追い風だと思いますが、
御社を含め鹿児島の茶業界としてはどう捉えてらっしゃいますか?

業界として飲み方や楽しみ方を啓蒙していかないといけないですが、静岡や京都は文化を感じさせるような取り組みをしています。鹿児島の場合は、鹿児島に来てもらって、お茶が育つ田舎の風土を味わってもらったり、温泉や自然に親しんでもらいながら、かごしま茶の良さを知ってもらうような方法も面白いのではと思います。

ーなぜ鹿児島の人は静岡の人よりお茶を飲まないんですかね?

そうですね、資料では静岡が鹿児島の倍以上の消費です。「かごしま茶が一番だよ」、「かごしま茶を飲もう」という啓蒙がまだまだ足りていないんだと思います。
いま、小学校に対して日本茶インストラクター協会が中心になって、「お茶のふれあい事業」という啓蒙活動を行っています。もっと活動を大きくして、地元のみなさんがもっと鹿児島のお茶を飲むようになったらいいなと思います。

ー最後になりますが、鹿児島の出汁素材とお茶の相性で試してみたいものはありますか?

やはり今まで”茶節”が伝統的にあったので・・、

ー大好きです(笑)

鰹節、本枯節との相性はいいと思います。他の素材も試せばもっと組み合わせの可能性は広がると思いますので、いりこ・海老・鶏・豚や牛などももっと研究の余地があります。植物系の昆布やシイタケは間違いなく合うと思います。お茶の中のテアニンとか、アルギニンなどのアミノ酸 旨味成分と、他の素材の香味やうまみ成分などのブレンドのバランスを研究すれば、いい香味が出ると思いますので、それを見付けていきたいですね。

ー出汁との組み合わせを考えたときのお茶は、やはり液状の素材との組み合わせが主になりますか?

ハーブのような使い方もできると思います。パセリを散らす代わりに、お茶を散らすような味や見た目のアクセントにもなると思います。香りと旨味と苦みもありますから。今は抹茶を使ったお菓子も人気がありますが、まだまだ伸びる可能性のある使い方だと思います。液体だけではなく、その料理に合わせて、いろんな形で使えますから、そこを出汁とバランスを取りながら組み合わせていくかですね。

ーインタビュー中、意欲的で、すごくキラキラしたお顔でお話しされるのが印象的でした。最後にズバリ、御社がこれから「発信していきたいお茶」とは何ですか?

お茶は心の癒しであると思います。飲んで落ち着く、そして別の面ではカフェインの作用でリフレッシュできたりもします。日本でのお茶の始まりは、お坊さんが薬として、また眠気覚ましとして飲んでいたというスタートですが、中国の神話では、薬草の神様がいろいろな食材を食べたときに毒消しとしてお茶を食べたり、煎じて飲んでいたりしたという伝説があります。茶道ではお茶を飲むことで心を落ち着かせ、文化を感じることができますので、是非お茶をのどの渇きを潤すものだけではなく、心の渇きを癒すというか潤すというか、うまく説明ができないですけど・・。

ーそういう潤いをもっともっとたくさんの方に感じていただきたいということでしょうか?

そうですね(笑)

ー今日はありがとうございました。

ありがとうございました。

インタビュー後記:
 日頃から慣れ親しんでいると思っていた「お茶」。その背景には、お茶に関わる方々による地道な啓蒙活動があったこと、更にその目は海外にまで向いていることを知り、自分も鹿児島のお茶を広めるためにできることがある、と思うようになりました。
出汁との相性も抜群の「かごしま茶」の未来は、森さんの眼差しのように輝いている。そう確信しています。

インタビュアー&ライター 西田将之

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