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『145年以上「お客様に喜ばれる味の創出」に挑むビジョナリーカンパニー』

藤安醸造の取締役の写真

藤安醸造株式会社 取締役営業部長 藤安健志

取締役製造部長 二宮和哉

インタビュー:2015年1月28日

広大な土地に構える歴史を感じずにはいられない佇まいの大きな本社工場。
味噌・醤油製造販売メーカー・藤安醸造は「ヒシク」のブランド名で鹿児島県内外に広く知れ渡る。その歴史のスタートは、なんと145年以上前に遡るという。 時代とともに移り変わる食文化を支え続ける老舗にその思いを伺った。

島津藩御用商人に始まり、世界に広がる“ヒシク”ブランド

ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、御社の歴史について教えて下さい。

初代藤安休左衛門が現在の鹿児島市住吉町で創業しました。創業当初は味噌・醤油ではなく穀物類を扱っており、島津藩の御用商人として、県外輸出品の統括を任されていたという記録が残っています。現在のような醸造業のスタート時期については厳密には不明でして、1870年の記録が最古のものとなりますので、1870年を創業年度と定めております。
三代目藤安喜左衛門の時代には、警察組織も整備されていなかったようです。そのような時代背景の中で、当時は年貢などとしての経済価値を持っていた穀物類の防犯策と合わせて、醸造という工程を加え、味噌・醤油に加工することで貯蔵していたようですが、自家用としては膨大な貯蔵量であったでしょうから、加工した味噌・醤油の販売事業が起こっていったのではないかと伝え聞いております。また米・大豆・麦を所有していたこともあり、当時は味噌・醤油以外に日本酒・焼酎も製造しておりました。現在の味噌・醤油・酢商品の土台になっている部分と考えております。
1980年、住吉町での工場規模拡充が周囲環境への配慮から難しいと判断し、谷山港地区の工業団地開発に伴い、現所在地に移転をしてまいりました。 かつては、代々実業家業の傍らでの醸造業でしたが、やがてそれが本業となり、現在に至っております。事業拡大を続ける中で、家庭用としての需要に応える形で、「専醤」という商品を開発し、大変に好評をいただいております。 現在でも「お客様に喜ばれる味創出業」というドメインをもとに味噌・醤油以外の商品の研究・開発にも力を入れております。また、海外のお客様にも弊社商品を喜んでいただけるようにもなってきました。
こうした発展も長年にわたる地元鹿児島の多くの方々のご支援が根幹にありますので、社員さんのアイデアを基に毎年3月に地域のお客様をお招きして「ほれぼれ祭」を開催し、毎年2,000〜3,000名の方に足を運んでいただいております。

藤安醸造の昔の集合写真

創業後の集合写真

ー海外に向けてはどのような取り組みをされていますか。

日本国内において食の多様化が進み、弊社としても売り先の幅を広げる必要から少しずつ海外への展開を進めてきました。海外での「日本食」の関心度は高いと捉えています。
先日上海に出向きましたが、スーパーでも寿司・刺身のコーナーは充実しています。おもしろいことに海外でも緯度が近いと味覚も近くなるんです。海外のバイヤーさんに弊社の醤油を気に入っていただきましたが、輸出するとなると原材料についての規制があることから、いわゆる「輸出用」として改良を重ねて、お取り引きにつながりました。
台湾では、味噌汁の試食をしていただく機会がありました。「おいしくできた」と思ってお出ししましたが、「塩辛い」と言われてしまいました。現地の方の味覚にマッチしないと市場開拓はできないと痛感しました。

県産ブランド“黒さつま鶏”の認知拡大に貢献したい

ー黒さつま鶏商品の開発について教えてください。

きっかけは非常に単純なものでした。九州新幹線開通に合わせて黒さつま鶏ブランドの開発があることを知り、「うちでも商品つくれたらいいよね」と話したのが始まりでした。初めは「黒さつま鶏みそ」を商品化しました。原材料として鶏を使うと骨が出ます。その骨を使って黒さつま鶏スープの開発がスタートしました。お取り引きのある飲食店さんにもお願いして、黒さつま鶏のメニューを出していただきながら、黒さつま鶏自体の認知を広めることと同時進行の開発でした。
黒さつま鶏は、飼育環境が充実していて肉質がしっかりしている反面、スープにについては、かなりあっさりした上品な味になります。黒さつま鶏自体の認知も広まっていく中での開発でしたので、弊社としてもブランドの認知拡大にも貢献したい思いもありましたので、スープに続いて、鶏飯の開発が始まることになります。

藤安醸造の野菜のおいしさ引き出すスープと藤安醸造の黒さつま鶏みその写真

左:野菜のおいしさ引き出すスープ/右:黒さつま鶏みそ

ーフリーズドライ鶏飯について教えて下さい。

黒さつま鶏のエキスから様々な商品開発を始めました。初めは飴やスープなどの開発を行っていましたが、今の鶏飯は2年ほど前から試作を始めました。容量や価格の変更を経て、現在に至りますが、その他にも、色や香りについても試行錯誤を繰り返してきました。「色が濃くないほうがいいだろう」と色のない醤油を使ってみたり、「味にパンチがない」ということで手直しをして、味が辛めで淡白な出汁に合う料理人用の醤油をベースに使ってみたりと、試作に次ぐ試作の日々でしたね。その結果、爽やかなゆずの香りで美味しい商品に仕上がりました。今ではフリーズドライ商品の中でも、特に好評をいただいています。

藤安醸造の奄美伝承鶏飯と藤安醸造の味噌ちゃぢょけの写真

左:奄美伝承鶏飯/右:味噌ちゃぢょけ

ー黒さつま鶏のネームバリューも浸透してきている印象ですが、いかがですか。

鹿児島の食自体が、注目されてきている状況がありますから、少しずつ広まってきている印象ですね。弊社の鶏飯もその一端を担っていきたいですし、相乗効果があると素晴らしいと思います。黒さつま鶏は「第三の黒」として認知が広まってきていますし、鹿児島には黒豚・黒牛や黒酢、焼酎も黒がありますから、「鹿児島の黒」としてどんどん広まっていくといいですね。

藤安醸造の塩麹飴と藤安醸造の味噌飴の写真

左:塩麹飴/右:味噌飴

素材の良さを引き立て、「美味しい食卓」のお手伝いができたら嬉しい

ー新しい取り組みにはどのようなものがありますか?また、鹿児島の出汁と調味料の関わりについてはどのようにお考えですか。

最近の取り組みとしては、若い世代の方々に味噌・醤油への関心を伺う機会をいただきました。驚いたのは意外とみそ汁を召し上がる方が多いということです。実家暮らしの方は、お母さんが作ってくれますし、一人暮らしの方でも定食屋さんなど外食の際に召し上がっている方が多かったのです。若い世代の方々の関心が低くはないことが分かったのは嬉しい収穫でしたので、“食べる喜び”や“作る喜び”をさらに発信していきたいと考える様になりました。
また、出汁と調味料との関わりについては、出汁は和食の表現の最たるものであると思いますし、みそ汁の出汁もいりこや鰹や様々な素材があります。いずれも味の黒子的存在ですから、それぞれを際立たせたり引き出したり、補い合ったりもあるかもしれません。味に関して言えば、鹿児島の味覚のベースそのものだと思います。土地の味覚に合っていることが原点です。調味料を製造している弊社としては、鹿児島の旨味とマッチングするのが調味料の良さですし、組み合わせることによって“美味しさ”も生まれます。素材を引き立て、旨味を引き出して、美味しい食卓のお手伝いができれば嬉しいですね。

「藤安醸造」の企業サイトはコチラ

インタビュー後記:
お話を伺い、まず驚いたのは会社の歴史。現存する記録から全てを紐解くのが難しい程だという。そして代々実業家として様々な事業を興してきた薩摩商人は、更に新たな市場を見据えている─。
インタビュー後、明日にでも本気で”美味い味噌汁”を作ってみようという気になった。もちろん藤安醸造の味噌を使って。

インタビュアー 笠井圭介

ライター 西田将之

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