出汁の王国・鹿児島プロジェクトの特集記事
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『保存料は使わない。人がやらないことをやる。進化を続ける“揚げ立て”の味。』

立石食品社長の写真

株式会社立石食品 代表取締役 立石悠治

インタビュー:2015年3月13日

薩摩藩の時代に琉球から伝わったとされるさつま揚げ。関西地方では天ぷらと呼ばれる。
揚立屋のさつま揚げは、その天ぷらを学んだ初代が、“揚げ立て”にこだわり鹿児島に持ち帰ったものだ。地元では馴染み深く種類も多い食材だが、時代を超えて守り続けられる揚立屋のこだわりは広くは知られてはいないかもしれない。
揚立屋のルーツと変わらないこだわりを出汁との展望と合わせてお話しいただいた。

鰹節屋の四男の長男が創業。正月も夜中に起きて揚げ立ての味を提供。

ー本日はよろしくお願いします。まずは御社の歴史について教えて下さい。
現在社長は何代目になられますか。

二代目です。三年前に引き継ぎました。やっぱり創業者というのはすごいと感じます。
会社って心電図と一緒で上がったり下がったりするものなので、良い状態でずっといけば安定して良いですが、良くない状態が続けば死んでしまいますからね。
元々は枕崎の出で、初めは鰹節屋だったんです。立石常次郎が創業者です。その四男坊の長男が先代の私の父です。
小学校の夏休みに、鰹漁船が港に戻ると、人手が足らないから加勢に行ってたんですね。同じ頃にいとこ達は手伝いはせずに、外に遊びに行っていたそうなんです。「なんで俺だけこんなことせんないけんのだろうか」という思いがあって、「ここには入りたくないな」と思っていたそうです。

ーそれで独立されたと?

はい、初めは静岡の焼津に鰹節の修業に出ました。その修行先が天ぷらと鰹節を製造していたらしいです。先代は事務員の方に聞いたそうです、「どっちが儲かりますか」と。「天ぷらが儲かります」と聞き、「そうですか」と。
鰹節は獲ってきて、骨を抜いて燻製してと、でき上がるまでに半年かかるんですよね。そして商品を納入してお金をいただくまで8ヶ月から9ヶ月程もかかります。天ぷらはすぐお金になるので、枕崎に帰りたくなかったこともあって、一生懸命に天ぷらを修業したそうです。
それがスタートですよ。焼津で独立し、工場も作りましたが、最終的には鹿児島に戻り、和田で操業していました。鰹節をせずに天ぷらで独立しましたから、本家からの支援はゼロでしたね。

ーでは、和田がスタートの地ということですか?

和田がスタートです。
最新の冷蔵庫を導入したらしいのですが、夜中の機械音や油の匂いが近隣にご迷惑だということで、現在の場所に移転してきました。それから35年ほど経ちましたかね。
創業当時の話ですが、当時はまず、お客さんがいない・原料メーカーさんがいない・何もない白紙だったんですね。そしてほとんどのお店は年末年始はお休みなんです。そんな中で、先代は夜中に起きて、商品を作って、温かい状態で年末も正月もお店を開けていたんです。揚げたては温かいですよね。当然諸先輩方よりも値段は低いですが、人が休んでいる時に仕事をして、そこから「揚げたて揚げたて」と言われたのかもしれませんね。

立石食品のさつまあげの写真

立石食品の商品の一部

ー鹿児島では後発ですし、特徴としては揚げたて・温かいというところが
受け入れられたわけですね。

私どもは、無リンすり身を使い、保存料を使わない製法ですが、結局は後発です。今も後発という気持ちがありますし、人と同じことをしていたら研鑽にならないので、人がまったくやってないことをやるという創業者の想いもあります。

ー揚立屋という名称になった20年ほど前ということですか。

はい、そうです。直営店は揚立屋という名称で金生町本店が一番最初で、22年前にオープンしました。

「保存料は使ったことがないから使い方がわからない」

ー“揚げ立て”の他にこだわりポイントはありますか。

今ではもう新しい考え方ではないかもしれませんが、“人に見せたくないところを見せる”スタイルです。それは20年ほど前では、新しかったでしょうけど、今は当たり前だと思います。オープンキッチンにして一番見せたくないところを見せる。今もそれを継承しています。やっぱり目の前でお客様に見ていただかないと、と思います。
あとは添加物を使わずに天然のものを使っています。8種類ほどの魚を組み合わせて、魚自体の味を組み合わせることによって作ります。保存料を使いませんが、実は使ったことがないから使い方がわかりません。ごめんなさい、チャレンジをしようとも思っていないです。だからこそ、怖がるんですよね、商品の扱いを。「どうしようどうしよう」というくらい心配になります。テストもしたこともありますが、我が社の商品は置いておくとすぐカビになります。

ーそこが大きなこだわりなんですね。

こだわりですね。

ー最近、食品を放置したままの実験画像みたいなものが出回ってもいますよね。

魚もそうなんですよ、無リンすり身というものを使っていますので、代替品がありません。大量に注文はします。ただ、同じメーカーさんのものをずっと使い続けます。特別オーダーなので、二年に一回ほどは産地に出向いて、すべての工場をチェックします。東南アジアや北海道、アラスカだったり。

ー無リンすり身の“無リン”というのはどういったものですか。

無添加の無に、リンはリン酸塩のリンです。昔の日本は魚を食べる方が多く、リンは摂取過剰だったということで、無リンすり身を使いなさいというお達しがありましたが、今の飽食の時代では、健康に害のあるリン摂取が減ったということで、リンの使用がOKになった結果、全国的に一気にリンの使用が広がりました。
当然、無リンすり身は割高なんですよ、特注なので。心が揺れ動きましたけれど、無リンからスタートした会社だから、無リンのこだわりを押し通しました。それで原料費が高くなっているのかもしれませんけど、そこは大事にしたいと思っています。でないと良いものが作れませんから。

立石食品のさつまあげ製造工程の写真
立石食品のさつまあげ製造工程の写真

製造の様子

鹿児島の出汁をさつま揚げの調味料として使っていきたい

ーさつま揚げの中でもお客さんに評判のいいものはありますか。

そうですね、柱となっているのはサツマイモだったり、ごぼうだったり、チーズだったり、ノーマルの棒天だったりが主流ですね。一年に一回、感謝セールをさせて頂いていています。地元で商売をさせていただいていて本社が鹿児島ですから、続けていきたいと思っています。ただ原料費が高騰しているのは確かなので、セール内容は一定とはいかないこともありますが、どんな形になろうとも続けていきたいと思っています。

ー出汁プロジェクトに参加以降、出汁を使った商品開発に対しては
どのようにお考えでしょうか。

できれば調味料として入れたいですよね。鰹節粉末・昆布粉末・しいたけエキス・鰹エキス・鰹椎茸昆布の組み合わせですね。出汁プロジェクトの出汁が、粉末状だといいなと考えています。それをさつま揚げに入れてもおもしろいかなというのはあります。

ー動物性の出汁だといかがですか。

動物性はビーフエキスみたいな感じで入れられると思います。ただ、化学調味料は使わないんですね。動物系の出汁もそういうものがあればテストで調味料として入れさせて頂いて良いと思いますけど。
よく東京の日本橋に行きますが、ある食堂がものすごく流行っているんですね。そこにいる奥様方をずっと見るんですよ。健康に良いものを食べたらあたかも「健康になった」って思われるんですよね、女性は特に。で、その帰りに、なぜかスイーツに走るんですよ。これっておかしいなってずっと思ってます。僕らもスポーツをして、「今日は良い汗かいたな痩せたな」と思って、グワーッとビール飲んだり。
男性も女性も一緒だけれど、食べて健康になる、出汁も飲んで健康になる健康補助食品みたいな切り口は良いんじゃないかと私は思います。

ーいま鹿児島女子短期大学さんと組んで、出汁茶漬けのレシピ開発を行っています。さつま揚げをトッピングで使ったりもしていて、活動を続けていく予定です。
最後になりますが、出汁プロジェクトに対してのリクエスト等ございませんか?

おでん出汁かな、と思ったりします。弊社でも一店舗くらいはおでんを出していきたいと考えています。去年、夏向けのゼリーおでんを試作しました。お蔵入りになりましたけどね(笑)。さつま揚げがあって、具材もあり、出汁が必要なんですよ。冬でも夏でもいいでしょうけど、さつま揚げのおでんを、と思っています。

ー次の試作が楽しみですね。今日はありがとうございました。

ありがとうございました。

揚立屋のさつま揚げが買える「揚立屋」HPはコチラ

インタビュー後記
軽快な語り口ながら、揺るぎない信念がまっすぐに伝わってきたのが印象的だった立石社長。その信念に支えられ“揚げ立て”を守り続けた歴史が、商品に姿を変えて食卓に届くことを考えると「ありがとう」という気持ちが湧き上がるほどです。こだわりの“揚げ立てさつま揚げ”と鹿児島の出汁との新しい出会いが楽しみです。

インタビュアー 井上秀幸

ライター 西田将之

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