『鹿児島発、老舗の肉屋が仕掛け続ける新たな挑戦。』 有限会社島田屋 代表取締役 島田秀樹 南九州最大の繁華街 天文館からほど近い、鹿児島駅周辺。桜島を目の前に望み、港も近くかつてはたくさんの人で賑わったこの地で、永く市民の舌を楽しませてきた老舗の肉屋、肉の名門島田屋。歴史を重ねる一方で、全国に誇る鹿児島の特産黒豚を使った新しいチャレンジも怠らない実直な姿勢。その根幹にあるものを四代目 島田秀樹さんに聞いた。 日本海軍の船乗り達が始めた肉屋「海軍屋」がルーツ。 卸元として多くの施設や飲食店の肉部門を担う。 ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、まずは島田屋について教えて下さい。 昭和元年に祖父が創業しましたが、祖父は早くに亡くなり、祖母・父の代を経て、現在私が四代目です。祖父は、日本海軍の機関長を務めていたそうで、その頃の仲間とともに、今の銀座通りに「海軍屋」という肉屋を開店したのが始まりです。 その後、太平洋戦争を経て、鹿児島駅から踏切を渡った旧本店で島田精肉店として再開し、現在の小坂通に在ります島田屋本店に至ります。 当時は鹿児島駅周辺が一番賑わっていた時代で、桜島桟橋の離島便を利用するお客さんの為の小さな旅館がたくさんあったと聞いています。 当時は小売りのみの営業でしたが、父の代で卸部門を広げて、現在では売上の8割ほどを卸が占めています。 ー卸先にはどういったところがありますか。 ホテル旅館をはじめ、学校関係・病院関係の給食、宅配系のお肉部門などが中心です。牛・豚・鶏を扱っていまして、量は豚が一番多いです。 ー商品は鹿児島県産が多いですか。 小売りの豚はほぼ鹿児島県産です。また卸部門ではお客様のニーズに合わせて様々なお肉を扱っています、現在は小売が占める割合が少なくなっていますので、今後は小売りの割合を増やしていこうとスタッフと取り組んでいます。 戦後再開から改装を経た鹿児島駅前の店舗 “肉屋”の視点から出汁関連商品をプロデュース。 ー島田屋さんの加工品の歴史は長いんでしょうか。 加工品はうちの強みです。私が修行先から鹿児島に戻って、20年ほど経ちますが、原点回帰でもないですが、以降積極的に取り組んでいます。いわゆるお肉屋さんのお惣菜はありましたが、現在ではハム・ソーセージやチャーシューや生ハムまで製造・販売を自社工場と店舗で行っています。 私は高校卒業後、東京農業大学畜産学科の畜産物利用研究室に入って加工品について学び、大学の友人にドイツ帰りの手作りハム・ソーセージの店を紹介してもらって3年ほど修行させてもらいました。ドイツのソーセージを東京で学びましたが、本場のドイツではどんな料理やお酒と組み合わせているのか、どんな売り方をしているのかを現地で学ぶため、最後の3ヶ月はドイツで食べ歩きをして鹿児島に戻りました。 ーこれまで賞を獲った商品はどんなものがありますか。 「黒豚パテ・ド・さつま」「黒豚チャーセージ」の2つあります。おかげ様でかなり評判が良いです。原料にこだわっている分、普段使いには向きませんが、特にギフトや催事で好評です。すべて鹿児島県産黒豚で作っているので、一昨年は関東の百貨店のイベントビアホールでダントツに人気で用意した分がすぐに無くなってしまいました。また、北海道でのイベントではテレビ放送があった影響もあり、こちらも一気に売り切れてしまいました。新しく生産量を増やす設備を導入しましたので、やっと量産できる体制が整ってきました。 -お肉のこだわりはどんなものがありますか。 一番需要の多い黒豚については、すべて産地証明を付けた形で販売しています。牛肉についてはトレーサビリティの番号を添えての販売です。 どちらもお客様の使いやすさにこだわった包装での販売に努めています。 ブラインドテストでも完全圧勝の「鹿児島産黒豚」と 「飽くなき探究心」との掛け算から生まれる新商品の数々。 ー様々なお肉を扱ってらっしゃいますが、鹿児島産のお肉の特徴にはどんなものがありますか。 私の師匠で、日本人で初めてマイスターを取得された方がいらっしゃいます。その方が鹿児島の黒豚に触れた瞬間「すごい!」って驚かれていました。肉質が全然違うと。「私の知る関東の豚とは差が歴然だ」とお墨付きをいただきました。一番大きい差は赤身のきめの細かさと脂身の旨味だと思います。 また、外食業界の専門誌が実施したブラインドテストがあって、プロの料理人を集め、黒豚と国産豚2種類とイベリコ豚で、生姜焼き・しゃぶしゃぶ・とんかつを食べた結果、すべてで黒豚が圧勝だったんです。それだけ別格で美味しさが際立っているということですね。圧倒的に旨味が違います。 私たち鹿児島の人間は良い食材に慣れ過ぎているのかもしれません。 黒豚しゃぶしゃぶ ー出汁プロジェクトに参加されて開発された「わっせーじ」の評判はいかがですか。開発のご苦労もお聞かせ下さい。 試作品を食べてもらうと評判はとても良いです。最初の試作で使った出汁は、鶏飯スープとかつお出汁とラーメンスープでした。 「わっせーじ」は出汁と塩と醤油と鹿児島の地酒しか使っていませんが、初めはベースの出汁が安定せず大変でした。一番出汁をとってみると上品すぎて弱いんです。逆に煮出しすぎるとえぐみが出るので難しかったですね。最終的には昆布出汁と合わせる形に落ち着きました。本場ドイツのソーセージでは塩分と香辛料やハーブ等で味付けしますが、「わっせーじ」は香辛料を一切使わず世界遺産となった和食の手法に学んで出汁と塩、醤油、地酒で味を決めています。そこが最大のこだわりですね。 「わっせーじ」は惜しくも賞を逃しましたが、さらに改良を重ねてリベンジを狙いたいです。 わっせーじ -今後展開する出汁関連のアイディアはありますか。 こだわりを追求するとどうしてもコストが高くなってしまいがちなので、そうではなくもっと手軽に手に取って頂けるような商品が作れればと思っています。 例えば肉まんのように、安くてボリュームがあるような商品に取り組んでみたいと思います。 ー次のアイディアも楽しみです。今日はありがとうございました。 ありがとうございました。 インタビュー後期: インタビュー中も、肉の卸先としてお馴染みの飲食店の名前がいくつも挙がるほど鹿児島の「食」を裏方として支えている島田屋さん。次々と新しいアイディアを打ち出す島田社長からは老舗の看板を守っているというよりは、攻めの姿勢を感じました。今後も老舗肉屋の新しい取り組みから目が離せません。 島田社長、お忙しい中ありがとうございました。 インタビュアー 井上秀幸 ライター 西田将之 コメントは受け付けていません。
『鹿児島発、老舗の肉屋が仕掛け続ける新たな挑戦。』 有限会社島田屋 代表取締役 島田秀樹 南九州最大の繁華街 天文館からほど近い、鹿児島駅周辺。桜島を目の前に望み、港も近くかつてはたくさんの人で賑わったこの地で、永く市民の舌を楽しませてきた老舗の肉屋、肉の名門島田屋。歴史を重ねる一方で、全国に誇る鹿児島の特産黒豚を使った新しいチャレンジも怠らない実直な姿勢。その根幹にあるものを四代目 島田秀樹さんに聞いた。 日本海軍の船乗り達が始めた肉屋「海軍屋」がルーツ。 卸元として多くの施設や飲食店の肉部門を担う。 ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、まずは島田屋について教えて下さい。 昭和元年に祖父が創業しましたが、祖父は早くに亡くなり、祖母・父の代を経て、現在私が四代目です。祖父は、日本海軍の機関長を務めていたそうで、その頃の仲間とともに、今の銀座通りに「海軍屋」という肉屋を開店したのが始まりです。 その後、太平洋戦争を経て、鹿児島駅から踏切を渡った旧本店で島田精肉店として再開し、現在の小坂通に在ります島田屋本店に至ります。 当時は鹿児島駅周辺が一番賑わっていた時代で、桜島桟橋の離島便を利用するお客さんの為の小さな旅館がたくさんあったと聞いています。 当時は小売りのみの営業でしたが、父の代で卸部門を広げて、現在では売上の8割ほどを卸が占めています。 ー卸先にはどういったところがありますか。 ホテル旅館をはじめ、学校関係・病院関係の給食、宅配系のお肉部門などが中心です。牛・豚・鶏を扱っていまして、量は豚が一番多いです。 ー商品は鹿児島県産が多いですか。 小売りの豚はほぼ鹿児島県産です。また卸部門ではお客様のニーズに合わせて様々なお肉を扱っています、現在は小売が占める割合が少なくなっていますので、今後は小売りの割合を増やしていこうとスタッフと取り組んでいます。 戦後再開から改装を経た鹿児島駅前の店舗 “肉屋”の視点から出汁関連商品をプロデュース。 ー島田屋さんの加工品の歴史は長いんでしょうか。 加工品はうちの強みです。私が修行先から鹿児島に戻って、20年ほど経ちますが、原点回帰でもないですが、以降積極的に取り組んでいます。いわゆるお肉屋さんのお惣菜はありましたが、現在ではハム・ソーセージやチャーシューや生ハムまで製造・販売を自社工場と店舗で行っています。 私は高校卒業後、東京農業大学畜産学科の畜産物利用研究室に入って加工品について学び、大学の友人にドイツ帰りの手作りハム・ソーセージの店を紹介してもらって3年ほど修行させてもらいました。ドイツのソーセージを東京で学びましたが、本場のドイツではどんな料理やお酒と組み合わせているのか、どんな売り方をしているのかを現地で学ぶため、最後の3ヶ月はドイツで食べ歩きをして鹿児島に戻りました。 ーこれまで賞を獲った商品はどんなものがありますか。 「黒豚パテ・ド・さつま」「黒豚チャーセージ」の2つあります。おかげ様でかなり評判が良いです。原料にこだわっている分、普段使いには向きませんが、特にギフトや催事で好評です。すべて鹿児島県産黒豚で作っているので、一昨年は関東の百貨店のイベントビアホールでダントツに人気で用意した分がすぐに無くなってしまいました。また、北海道でのイベントではテレビ放送があった影響もあり、こちらも一気に売り切れてしまいました。新しく生産量を増やす設備を導入しましたので、やっと量産できる体制が整ってきました。 -お肉のこだわりはどんなものがありますか。 一番需要の多い黒豚については、すべて産地証明を付けた形で販売しています。牛肉についてはトレーサビリティの番号を添えての販売です。 どちらもお客様の使いやすさにこだわった包装での販売に努めています。 ブラインドテストでも完全圧勝の「鹿児島産黒豚」と 「飽くなき探究心」との掛け算から生まれる新商品の数々。 ー様々なお肉を扱ってらっしゃいますが、鹿児島産のお肉の特徴にはどんなものがありますか。 私の師匠で、日本人で初めてマイスターを取得された方がいらっしゃいます。その方が鹿児島の黒豚に触れた瞬間「すごい!」って驚かれていました。肉質が全然違うと。「私の知る関東の豚とは差が歴然だ」とお墨付きをいただきました。一番大きい差は赤身のきめの細かさと脂身の旨味だと思います。 また、外食業界の専門誌が実施したブラインドテストがあって、プロの料理人を集め、黒豚と国産豚2種類とイベリコ豚で、生姜焼き・しゃぶしゃぶ・とんかつを食べた結果、すべてで黒豚が圧勝だったんです。それだけ別格で美味しさが際立っているということですね。圧倒的に旨味が違います。 私たち鹿児島の人間は良い食材に慣れ過ぎているのかもしれません。 黒豚しゃぶしゃぶ ー出汁プロジェクトに参加されて開発された「わっせーじ」の評判はいかがですか。開発のご苦労もお聞かせ下さい。 試作品を食べてもらうと評判はとても良いです。最初の試作で使った出汁は、鶏飯スープとかつお出汁とラーメンスープでした。 「わっせーじ」は出汁と塩と醤油と鹿児島の地酒しか使っていませんが、初めはベースの出汁が安定せず大変でした。一番出汁をとってみると上品すぎて弱いんです。逆に煮出しすぎるとえぐみが出るので難しかったですね。最終的には昆布出汁と合わせる形に落ち着きました。本場ドイツのソーセージでは塩分と香辛料やハーブ等で味付けしますが、「わっせーじ」は香辛料を一切使わず世界遺産となった和食の手法に学んで出汁と塩、醤油、地酒で味を決めています。そこが最大のこだわりですね。 「わっせーじ」は惜しくも賞を逃しましたが、さらに改良を重ねてリベンジを狙いたいです。 わっせーじ -今後展開する出汁関連のアイディアはありますか。 こだわりを追求するとどうしてもコストが高くなってしまいがちなので、そうではなくもっと手軽に手に取って頂けるような商品が作れればと思っています。 例えば肉まんのように、安くてボリュームがあるような商品に取り組んでみたいと思います。 ー次のアイディアも楽しみです。今日はありがとうございました。 ありがとうございました。 インタビュー後期: インタビュー中も、肉の卸先としてお馴染みの飲食店の名前がいくつも挙がるほど鹿児島の「食」を裏方として支えている島田屋さん。次々と新しいアイディアを打ち出す島田社長からは老舗の看板を守っているというよりは、攻めの姿勢を感じました。今後も老舗肉屋の新しい取り組みから目が離せません。 島田社長、お忙しい中ありがとうございました。 インタビュアー 井上秀幸 ライター 西田将之