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切っても切れぬ仲!!「出汁と水の関係」について

福島洋子の出汁レポート第2回

鹿児島の出汁いろいろ

(“鰹節”ならぬ)“黒豚の節”をスープに「特性黒ぶしラーメン」のご紹介と「出汁と水」 について

今回、鹿児島市谷山中央で、創業25年のラーメン店「夢一屋(ゆめいちや)」を営む前野氏にお話をうかがうことが出来た。前野氏こだわりのラーメンの出汁と、水にまつわるエピソードも含めてご紹介したい。
豚骨ラーメンも提供しているが、黒豚のもも肉を10日から~15日間燻煙した“鰹節”ならぬ“黒豚の節”でとった出汁を用いた「特性黒ぶしラーメン」等を提供している前野氏は、「夢一屋」でしか食べられないラーメンを作りたいという思いから、「特性黒ぶしラーメン」の開発に繋がった。食べる直前にラーメン丼に、粉末にした“黒豚の節”を加え熱い鶏ガラスープを注ぎラーメンを盛る。さっぱりとしたコクのあるラーメンで美味しい。前野氏のラーメンの特徴として重要な点は他にもある。幻の豚、鹿児島黒豚の源流といわれる奄美島豚をスープや焼き豚に使用している。奄美島豚はスープの出かた、質も違いコクがあると言う。そして、自分達が用いることをきっかけに美味しい貴重な奄美島豚の存在を知ってもらうことで飼育や需要が増えて種を絶やさないようにしたいという熱い思いもある。
さらなる夢は、無化学調味料のラーメンを提供することだと訴える。しかし、試作してわかったことは無化学調味料のラーメンはスープを濃厚に煮詰めていく必要があり、材料コストがかかり1杯1300円で売らないと合わないそうである。東京で成功したTV等のマスコミに登場するおなじみの有名ラーメン店の経営者も無化学調味料のラーメンには「手を出すな!つぶれるぞ!」とアドバイスする。実際、無化学調味料のラーメンに挑戦した前野氏の仲間には、経営難に陥り廃業していっている者も何人かいる。東京の中心地で人気店になれば、まだ経営的に成り立つのかもしれないがと。
前野氏も、水の影響に悩み試行錯誤されたおひとりである。麺づくりの粉に混ぜる“かん水”を作る時に、初め水道水をそのまま使用していたら、麺の仕上がりにムラが有ることに気付いた。そこで、製麺用の粉の仕入れ先である粉製粉会社と相談を重ね、いろいろな方からのアドバイスも受ける中で水道水に処理を行い使用するようになった。使う水はたっぷりの備長炭でろ過を行い、機械による電子の力を利用しクラスターを小さくしたものを使用している。ラーメンに使うスープや他の具材等もこの水を使用して調理する。それから、麺の仕上がりにムラもなくなり安定した麺を提供できるようになったと、それ以前のお客さんには、申し訳ないことしてしまったと悔やまれている。
前野氏曰く、美味しい湧水の出る場所でラーメン屋を開けたらベストだが集客のための立地条件も経営には不可欠であると。また、水道水の処理についても他にも方法があるのかもしれないが、現時点ではコスト面も考慮しこの方法を採用しているとのことであった。

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ラーメン作りを初めとする料理に対する水の影響

水について

京都の裏千家専門の茶懐石料理屋「辻留」の2代目であり東京に進出し、日本の伝統料理の普及につくし現在の懐石料理の基礎を築いた辻 嘉一氏(1907-88年)と、“日本のフランス料理の父”と称されるホテルオークラ東京初代総料理長の小野正吉氏(1918-97年)が、対談で水は料理の基本であると述べている。辻氏は裏千家の出張料理の際も、自宅の湧水を運んで料理をされていた。料理を出す場所での水には注意を怠らなかった。
去る12月8日に行われた出汁の王国・鹿児島プロジェクト推進協議会においてイタリア料理の第一人者、濱崎龍一氏からのアドバイスの中でも、鹿児島の誇る美味しい水、超軟水は、“水分子の集団”(クラスター)も小さく出し素材の旨味を引き出す、これが鹿児島の武器になると述べている。
水の味を左右する要素にはいくつかある。その1つとして、水の中の無機質の含有量がある。水に溶存するカルシウムやマグネシウムなどの無機質の含有量によって水の味は左右される。この無機質の含有量によって水は軟水、硬水の2つに大きく分類される。日本の水は、一般的に無機質含有量が比較的少ない軟水である。西欧諸国の水はその地質の影響を受けて無機質含有量の多い硬水が一般的である。また、近年、おいしい水や熟成した食品のおいしさは、“水分子の集団”(クラスター)の大きさと関係していることが研究及び分析により明らかになった。クラスターの小さい水は、飲用した時も口当たりがやわらかく体内での吸収もよいと言われている。つまり、クラスターが小さいと食材の中まで必要な水分が十分に浸透しやく、その水に含まれる出汁の旨味や調味料が十分に浸み込むので料理の味を高めることに繋がると言えるだろう。

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福島 洋子 プロフィール

出汁の王国・鹿児島プロジェクトのご意見番である鹿児島女子短期大学名誉教授福司山エツ子先生に師事。大学・短大・専門学校等の非常勤教師として「子どもの食と栄養」「栄養生化学」を担当。鹿児島大学男女共同参画センター研究支援員、鹿児島大学教育実践センター研究協力員でもあり「家庭、学校、地域をつなぐ食生活教育」「鹿児島の食材を味わい味覚を育てる」等をテーマとして研究している。管理栄養士、栄養教諭、社会福祉士の資格を持ち、公民館・イベント等の料理教室講師および食生活に関する講演等の講師としても活躍している。

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