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出汁のおいしさを伝え、枕崎の街づくりに貢献したい。

中原水産株式会社 常務取締役 中原晋司さん インタビュー

中原水産株式会社 常務取締役 中原晋司

インタビュー:2013年2月17日

鹿児島県薩摩半島南西部に位置し、東シナ海に面する人口23,000人の街、枕崎。鹿児島県は、ここ枕崎市と指宿市山川の2市で鰹の水揚げ量全国有数規模を誇り、鰹節を年間25,000トン生産。これは全国シェアの70%を占めるという。
今回のインタビューは、この枕崎で65年もの間、水産業を営む中原水産株式会社の常務取締役の中原晋司さん。
鹿児島県内の高校を卒業後、東京に進学。外資系の経営コンサルティング会社や新規事業育成会社を経て2008年に帰鹿し、中原水産株式会社へ。長年、県外での生活を経てから、<鹿児島>を改めて見て、驚きにあふれていたとか。インタビュー当日は、海外との商談会に参加し、海外の方に鰹出汁を楽しんでいただく試みを実施。その合間を見て、出汁の魅力についてお話しいただきました。

枕崎の漁師が船上で食べる丼飯からヒントを得た、
絶品の鰹出汁を味わう鰹船人めし。

ーこんにちは、今日はお忙しいところありがとうございます。さて、早速ですが、枕崎に本拠地を置く「中原水産」について教えていただけますか?

ひと言で言えば、「お出汁カンパニー」です。(笑)出汁を楽しむことを、とことんご提供する企業です。鹿児島が「出汁の王国」であるなら、枕崎を「出汁のふるさと」にしたいと思っています。鰹節を街中で生産するここ枕崎で、出汁を存分に楽しむことの出来る「お出汁カンパニー」を目指したいと思っています。
美味しい出汁を身体に取り込む、つまり、本物を取り入れ、心を込めて出汁を創ると本当に楽しいですよね。しかもそれが一日に何度もできると楽しい、そして健康にいい、こんなにいいことはない。
出汁をとることを気軽に楽しめるグッズを開発したりなど、お出汁カンパニーである中原水産は、お客さまのお出汁に関する疑問は解決できるようにしたい、ご家庭で出汁の良さを楽しんでいただければ、と思っています。

ーそこで今日は、海外の方に鰹出汁や鰹船人めしを味わっていただく試みを鹿児島市内でなさっていたのですね。みなさんの評判はいかがでしたか?

今回は、香港、マカオ、シンガポールのホテルのシェフに対し、鰹出汁と船人めしを味見してもらいました。好評でしたよ。いろいろなスープや出汁の味を知り尽くしている一流の方だというのに、うれしいことです。

もともと「枕崎鰹船人めし(以下「船人めし」)は、襖屋さんのおやじが発案した料理なんです。(笑)食をテーマに鰹節で街を活性化したい、と、人口が減少が続いていた枕崎市の街おこしを目指して、2年前に作られました。「船人めし」は漁師が一本釣りした鰹を船の上で血抜きして捌き、ごはんに豪快にのっけて食べることからヒントを得てできたもの。「船人めし」のルールは3つあり、①枕崎の本枯れ節を使う、②トッピングにかつおの切り身を使用する、③かつお節はトッピングにも使用する。そして、基本的には枕崎市の10店舗だけでのみ、食べることができる料理です。それを今回は特別に、海外のお客様に食べてもらえるよう準備しました。

海外の方に鰹出汁や鰹船人めしを味わっていただく試み1

海外の方に鰹出汁や鰹船人めしを味わっていただく試み2

出汁をテーマにした商品を作ったのは枕崎が初めてです。「鰹」自体のアピールはもちろんのこと、枕崎は「鰹節」が一番の街、だから「節」をメインにしたい、そんな想いがありました。鹿児島市内で「船人めし」を提供するお店はありません。枕崎でのみ提供できるように、厳しく品質管理をするようにしていますから。

ー先日1月27日に鹿児島市の天文館で行ったフォーラム「『Umamiを巡る冒険?鹿児島の豊かさはここにある』」がありましたね。その中で、今後の出汁の普及の展開案として、出演者より提案がありましたが、いかがでしたか?

コーヒーの煎れ方と出汁の作り方の比較をされた、あれはよかったですよね。実はワインバーなどに行くとワインと比較をしたりもするんです。香りや味わいを楽しむ部分が、まさに出汁とワインで一緒なのです。
コーヒーとワインといった、海外の文化が日本に入ってきて浸透したことがヒントとなって、日本から海外へも出汁をとることはいいことなのだよ、と表現をしてみる。こちらから、海外に伝えていかないと行けないですよね。

フォーラムではいろいろな気づきをもらえました。コーヒーのような他の食品との比較が出来たのは面白かったです。例えば、鰹節は発酵食品なので、チーズや納豆とかとも比較ができるかもしれません。チーズのスライサーは鰹節の削り機とそっくり。ヒントはいろいろなところにあふれているので、他の世界とつなげて表現していくこともできますね。また、チーズや納豆と同様、鰹節はアミノ酸の宝庫です。元気になるし、肥満防止効果があるらしいです。旨味を味わうことにより、味覚が満たされて減塩の効果もあり、健康にいいですね。

鰹節を削るということに関しても面白い結果が得られています。先日、東京で催事をしたときに鰹節削り器が意外に売れたんです。購入者の多くは30代の女性。この世代のお客様は、先入観がなく、本物志向なんですね。鰹節を削ることの良さを知り、削り器が便利であるとわかって購入してくださいました。ということは、鰹節の種類もわからないし、削りかたも削り器もわからない、出汁の取り方もよくわからない、という方が多いなかで、それを解きほぐす様なことをすればかなりの方が興味を持ってくださるのではないでしょうか。 コーヒーでも以前はインスタントばかりでしたが、最近は豆から挽く人が多くなりましたから、出汁もその良さを知れば、鰹節を削って出汁をとる人が増えてくるのでは、と思っています。

これは食産業でなく知識産業。
出汁をとる楽しさを味わえるように。

ー実際に、中原さんご自身で出汁をとったり、ご自宅で実践されたり、気をつけていることはありますか?

無理せず、出汁をとりたい時にとる、という感じですね。(笑)あまりこだわりすぎないこと。例えば、わたしもカップラーメンは食べます。でもそのときに、本枯れ節をちょっと加えると豪華なカップラーメンになりますよ。
また、わたしも化学調味料をつかうときもあります。毎回、鰹節を削って出汁をとるわけではありません。こだわるときはこだわる、日常の中でちょっとだけでも本物の出汁を味わうように気をつけています。化学調味料を否定しているわけではなく、共存する、本物があるということを知っていることが大事だと思います。

実は、出汁というのは食品産業ではなく“知識”や“教育”産業ではないかな、と思っているのです。伝えるひとを育成すること、コンテンツや教材が大切なのではないのかと。出汁をとることが「楽しい」と思ってもらうような仕掛け作りとか。

ーでは、さっそく私が基本からお聞きしたいのですが(笑)、本枯れ節など「節」の名前をよく聞きます。鰹節にはどんな種類があるのでしょうか?

単純に言うと、「本枯れ節(ほんかれぶし)」と「荒節(あらぶし)」、そして「生利節(なまりぶし)」この3種類だけです。
工程で言うと、鰹をゆでて冷ましたものを「生利節」といいます。水分がたっぷり入って柔らかい鰹節。切って角煮にしたり、そのまま白いご飯と食べたりするものですね。
その生利節を、煙で燻すと「荒節」になります。見た目は黒い鰹節で、2~3週間でできる普通の鰹節です。この荒節の表面を削って、麹菌(カビ)を加え、日に干したり、カビ室に入れたりを何度も繰り返すと、「本枯れ節」になります。なので、「荒節」と「本枯れ節」の違いは発酵しているか、していないか。水分もかなり減っていて、世界で一番固い食べ物だと言われています。

出汁をとる時に使うのはこの「荒節」と「本枯れ節」です。「荒節」は名前の通り、煙のにおいがぷんぷんして魚臭いのが特徴、本枯れ節は発酵させることによって煙臭がなくなって、うまみが熟成します。本枯れ節は鰹節の最高級品です。

ー本枯れ節と荒節、具体的に料理ではどのように使い分けるのですか?

本枯れ節は、出汁で一本勝負だけど、あまり主張させたくないときに。例えば、京都の料亭の最後の澄まし汁や茶碗蒸しなど。出汁を感じるけど、すっきりとした味わいのものですね。荒節は、その名の通り荒々しく出汁の味を出したいときに使いますね。例えばお味噌汁やおでんなどは、荒節でもいいですよ。そして、関東ではお蕎麦の出汁によく本枯れ節を使っていますね。お蕎麦の味を邪魔しないで、鰹の純粋な味をだしているので。

鰹節から出汁を取る写真1

鰹節から出汁を取る写真2

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