作り手の心配りが凝縮した鶏出汁のスープ、 島のおもてなし料理「鶏飯」。 奄美の里 レストラン「花ん華」 料理長 松尾勝也 インタビュー:2013年4月16日 南北600キロの広大な県土に605の島を保有し、豊かな自然にあふれた場所、鹿児島。なかでも、県本土から300キロ南へ下った奄美群島は8つの島から構成され、マングローブや特別天然記念物アマミノクロウサギなど珍しい自然や生物、また独特な文化が多くの人を魅了しています。 今回のインタビューでは、鹿児島市内で奄美の魅力を紹介する「奄美の里」のレストラン「花ん華」の料理長 松尾勝也さんを訪ねました。 松尾さんは、長年ホテルでの経験を積み、食を知り尽くしたエキスパート。現在は、奄美の郷土料理「鶏飯」(けいはん)が人気のレストラン「花ん華」で料理長をされています。 そんな松尾さんに、美味しい鶏出汁の取り方と郷土料理「鶏飯」について、楽しくお話をお聞きしました。 奄美大島の郷土料理「鶏飯」。 鶏の出汁をふんだんに味わうことのできる逸品。 ーこんにちは、今日はよろしくお願いします。今回は、出汁の中でも“鶏出汁”に注目したいと思います。昨年、松尾さんは出汁プロジェクトで鶏出汁教室もなさったとのこと、ぜひ家庭での美味しい鶏出汁の取り方について教えてください。 わかりました、よろしくお願いします。それでは、「花ん華」で出している鶏飯での鶏出汁の取り方を基本に、お伝えしましょう。 まず、お肉屋さんで県内産の地鶏ガラを4〜5羽ほど準備します。内臓や血合い、脂などが残っていることが多いので、家できれいに洗い落としてください。ガラ本来の骨から出汁をとる準備をします。 最初に、くさみを抜くために、沸騰したお湯に一回入れ、灰汁をとってください。そして、一度お湯をこぼし、ガラをきれいに水洗いします。 それから水から一気に炊くのです。沸騰すると灰汁が出てくるので、火を弱めてぐつぐつと煮る、骨がくだける程度に。灰汁をとりながら3時間は煮てくださいね。 そうすると澄んだ色の鶏出汁ができます。 なお、鶏飯のスープを作る場合は、鰹出汁を加えます。豚肉でも牛肉でも、やはり、山の幸と海の幸の味をあわせる方が日本人の体には合うようです。出汁を飲みやすくするのですね。 「花ん華」の鶏飯は、奄美大島の地元で作るものと少し変えています。奄美大島の鶏飯は脂が浮いているのが多いので。子どもからお年寄りまで楽しんでいただくために、ここ鹿児島市内では、脂をできるだけ少なくなるように調理しています。かといって、脂を全てとるのではなく、脂に入っているコクとスープが混ざり合うと香りが出てくるので、ちょうど良いバランスになるようにすることが大切。 また、夏場と冬場は鶏飯の作り方を変えるようにしています。たとえば、夏になると脂が欲しくなるし、汗をかいて体内の塩分が少なくなる——、その場合に塩と脂の量を気持ち少しだけ多めにします。風味付け、香り付けをするときは、一年を通して、鶏飯を食されるお客様の身体の状態を見て、すこしずつ変えているのです。 それに気づいたのは、春になると「塩分が濃いのでは?」と、また夏になると「出汁が少し薄いのでは?」と、お客様にご指摘されたことです。出汁の味は一緒なのですが、食されるお客様の身体が季節によって変化しているのだな、と、わかりました。 料理を作っている私たちは毎日味見をして、味が安定していることを確認するのですが、お客様は1ヶ月に一度、または何ヶ月ぶりにレストランにいらっしゃるので、夏場に汗をかくなど、気候や体調の変化でずいぶん味覚が変わるのですね。「料理長が変わったのですか?」とまで聞かれたことがありましたよ。(笑) 作り手の心配りが凝縮した鶏出汁のスープ、 島のおもてなし料理「鶏飯」。 ー丁寧に取られる鶏出汁をたっぷり味わう「鶏飯」、身体にも良く、魅力的な料理ですね。ところで、この「鶏飯」はそもそもどういう時に食べた料理なのでしょうか。 よく言われているのは、奄美大島が島津家の統治下にあった頃に薩摩の役人が島に来られた時のこと。島の生活は困窮していたので、ごちそうを作ることができなかったのです。だから、自宅の庭で飼っている鶏を絞めて出汁をとって作ったのが「鶏飯」だったとのこと。卵は高級な食材でしたが、それ以外の具材は、パパイヤ漬けや椎茸、ネギ、紅ショウガと、とても質素。ただ、彩りが美しいもの選んであるので、ご飯の上に、これらの具材を丁寧にのせ、新鮮な鶏肉からじっくりと取り出した美味しい出汁をかけて「どうぞお食べください」と、お客様にお出しする、それがとても贅沢だったのです。一部では「殿様料理」とも言われていたともお聞きしますね。 当時は、鶏を絞めてお料理に出すというのは、大変なことでした。大事な卵を産んでくれる鶏ですから。それだけ、お客様をもてなしたい、という気持ちでいっぱいだったのでしょう。 しかも、当時、「鶏飯」を作るときは、丸鶏を使って出汁をとり、残ったお肉を割いて盛りつけるという、身の回りにある食材を最大限に使う一品でした。その時代の質素な生活から精一杯の料理を作るという、島の方々の温かさが伝わる料理だと思います。 ーなるほど、鶏飯は島の方の想いの詰まった料理なのですね。また、出汁は、料理の中で、昔から本当に大切だったのですね。松尾さんがお店で出される出汁づくりの細心の気配りをお聞きしてびっくりしました。 実は、毎日安定して美味しく出汁を作るのは難しいのです。よくラーメン屋さんでも納得したスープができないと、お店を閉めることがありますよね。それは本当のあり方なんだろうなとも思います(笑)ちょっとしたことで味が変化してしまう出汁。年中、その味をキープするのは大変。それを、何年も保ち、お客様を惹き付けているラーメン屋さんを見ると、いつも「すごいな」と感心します。 「花ん華」では、週に1回はスタッフに賄いとして鶏飯を出して味を確認するようにしています。特にレストランのホールで働く女性スタッフに食べてもらい、率直に厳しい意見を言ってもらうのです。そうすると、料理人である私たちも気づかない変化を教えてもらうことがあります。 ▶ 続きへ ページ: 1 2 コメントを残す コメントをキャンセル メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です 名前 * メールアドレス * ウェブサイト コメント 次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>
作り手の心配りが凝縮した鶏出汁のスープ、 島のおもてなし料理「鶏飯」。 奄美の里 レストラン「花ん華」 料理長 松尾勝也 インタビュー:2013年4月16日 南北600キロの広大な県土に605の島を保有し、豊かな自然にあふれた場所、鹿児島。なかでも、県本土から300キロ南へ下った奄美群島は8つの島から構成され、マングローブや特別天然記念物アマミノクロウサギなど珍しい自然や生物、また独特な文化が多くの人を魅了しています。 今回のインタビューでは、鹿児島市内で奄美の魅力を紹介する「奄美の里」のレストラン「花ん華」の料理長 松尾勝也さんを訪ねました。 松尾さんは、長年ホテルでの経験を積み、食を知り尽くしたエキスパート。現在は、奄美の郷土料理「鶏飯」(けいはん)が人気のレストラン「花ん華」で料理長をされています。 そんな松尾さんに、美味しい鶏出汁の取り方と郷土料理「鶏飯」について、楽しくお話をお聞きしました。 奄美大島の郷土料理「鶏飯」。 鶏の出汁をふんだんに味わうことのできる逸品。 ーこんにちは、今日はよろしくお願いします。今回は、出汁の中でも“鶏出汁”に注目したいと思います。昨年、松尾さんは出汁プロジェクトで鶏出汁教室もなさったとのこと、ぜひ家庭での美味しい鶏出汁の取り方について教えてください。 わかりました、よろしくお願いします。それでは、「花ん華」で出している鶏飯での鶏出汁の取り方を基本に、お伝えしましょう。 まず、お肉屋さんで県内産の地鶏ガラを4〜5羽ほど準備します。内臓や血合い、脂などが残っていることが多いので、家できれいに洗い落としてください。ガラ本来の骨から出汁をとる準備をします。 最初に、くさみを抜くために、沸騰したお湯に一回入れ、灰汁をとってください。そして、一度お湯をこぼし、ガラをきれいに水洗いします。 それから水から一気に炊くのです。沸騰すると灰汁が出てくるので、火を弱めてぐつぐつと煮る、骨がくだける程度に。灰汁をとりながら3時間は煮てくださいね。 そうすると澄んだ色の鶏出汁ができます。 なお、鶏飯のスープを作る場合は、鰹出汁を加えます。豚肉でも牛肉でも、やはり、山の幸と海の幸の味をあわせる方が日本人の体には合うようです。出汁を飲みやすくするのですね。 「花ん華」の鶏飯は、奄美大島の地元で作るものと少し変えています。奄美大島の鶏飯は脂が浮いているのが多いので。子どもからお年寄りまで楽しんでいただくために、ここ鹿児島市内では、脂をできるだけ少なくなるように調理しています。かといって、脂を全てとるのではなく、脂に入っているコクとスープが混ざり合うと香りが出てくるので、ちょうど良いバランスになるようにすることが大切。 また、夏場と冬場は鶏飯の作り方を変えるようにしています。たとえば、夏になると脂が欲しくなるし、汗をかいて体内の塩分が少なくなる——、その場合に塩と脂の量を気持ち少しだけ多めにします。風味付け、香り付けをするときは、一年を通して、鶏飯を食されるお客様の身体の状態を見て、すこしずつ変えているのです。 それに気づいたのは、春になると「塩分が濃いのでは?」と、また夏になると「出汁が少し薄いのでは?」と、お客様にご指摘されたことです。出汁の味は一緒なのですが、食されるお客様の身体が季節によって変化しているのだな、と、わかりました。 料理を作っている私たちは毎日味見をして、味が安定していることを確認するのですが、お客様は1ヶ月に一度、または何ヶ月ぶりにレストランにいらっしゃるので、夏場に汗をかくなど、気候や体調の変化でずいぶん味覚が変わるのですね。「料理長が変わったのですか?」とまで聞かれたことがありましたよ。(笑) 作り手の心配りが凝縮した鶏出汁のスープ、 島のおもてなし料理「鶏飯」。 ー丁寧に取られる鶏出汁をたっぷり味わう「鶏飯」、身体にも良く、魅力的な料理ですね。ところで、この「鶏飯」はそもそもどういう時に食べた料理なのでしょうか。 よく言われているのは、奄美大島が島津家の統治下にあった頃に薩摩の役人が島に来られた時のこと。島の生活は困窮していたので、ごちそうを作ることができなかったのです。だから、自宅の庭で飼っている鶏を絞めて出汁をとって作ったのが「鶏飯」だったとのこと。卵は高級な食材でしたが、それ以外の具材は、パパイヤ漬けや椎茸、ネギ、紅ショウガと、とても質素。ただ、彩りが美しいもの選んであるので、ご飯の上に、これらの具材を丁寧にのせ、新鮮な鶏肉からじっくりと取り出した美味しい出汁をかけて「どうぞお食べください」と、お客様にお出しする、それがとても贅沢だったのです。一部では「殿様料理」とも言われていたともお聞きしますね。 当時は、鶏を絞めてお料理に出すというのは、大変なことでした。大事な卵を産んでくれる鶏ですから。それだけ、お客様をもてなしたい、という気持ちでいっぱいだったのでしょう。 しかも、当時、「鶏飯」を作るときは、丸鶏を使って出汁をとり、残ったお肉を割いて盛りつけるという、身の回りにある食材を最大限に使う一品でした。その時代の質素な生活から精一杯の料理を作るという、島の方々の温かさが伝わる料理だと思います。 ーなるほど、鶏飯は島の方の想いの詰まった料理なのですね。また、出汁は、料理の中で、昔から本当に大切だったのですね。松尾さんがお店で出される出汁づくりの細心の気配りをお聞きしてびっくりしました。 実は、毎日安定して美味しく出汁を作るのは難しいのです。よくラーメン屋さんでも納得したスープができないと、お店を閉めることがありますよね。それは本当のあり方なんだろうなとも思います(笑)ちょっとしたことで味が変化してしまう出汁。年中、その味をキープするのは大変。それを、何年も保ち、お客様を惹き付けているラーメン屋さんを見ると、いつも「すごいな」と感心します。 「花ん華」では、週に1回はスタッフに賄いとして鶏飯を出して味を確認するようにしています。特にレストランのホールで働く女性スタッフに食べてもらい、率直に厳しい意見を言ってもらうのです。そうすると、料理人である私たちも気づかない変化を教えてもらうことがあります。 ▶ 続きへ ページ: 1 2