『受け継がれ、進化する、伝統と手作業の味。』テスト

的場水産社長の写真

 

的場水産株式会社 代表取締役 的場信也

インタビュー:2015年2月25日

 

鹿児島県薩摩半島の南西部の東シナ海を臨む港町。全国有数のカツオの水揚げを誇り、日本一の鰹節産地としてその名を知られる枕崎。その製法はこの地で三百年以上も守り続けられた。”本物の味を正直に”届ける的場水産株式会社。鰹節と向き合い続ける信念とそれを支える手技の”賜物”について、また出汁関連の取り組みについて、同社的場信也社長にお話を伺った。

 

複雑な製造工程、そのほとんどは職人の”手”作業で支えられている。

 

ーこんにちは。本日はよろしくお願いします。事前に鰹節の製造工程を見せていただきました。実に数多くの工程と職人さんの技術によって、その品質と伝統がまもられているのを感じました。現在に至るまでの歴史や市場動向の推移も含めて、鰹節を取り巻く環境と、その歴史を継承し、伝承する役割を担っている御社についていろいろとお話を伺いたいと思います。まずは、御社創業当時のお話を教えて下さい。

創業から来年で60年が経ちます。私の祖父が創業した頃の枕崎は、枕崎の人口も今よりもずっと多く、一番多かった時で35,000人ほどだったそうです。昭和33年頃でしょうか。

 

ーその頃は鰹節製造をされている工場は多かったんでしょうか。

今よりも多かったですね。創業当時の詳細なことは分かりませんが、一番工場が多かった頃で約150社ほどありましたし、個人でされている事業者さんも今よりずっと多くいらっしゃったようですよ。

 

ー今は何軒くらいの工場が製造をされていますか。

今はだいたい50社ほどじゃないでしょうか。

 

ー鰹節製造を続けてらっしゃる工場と廃業された工場の差はどういったところに理由があったんでしょうか。

見ていただいた通り、鰹節の製造には大変に複雑な工程が必要です。しかもかつてはほとんどが職人の手作業だったわけですし、後継者が育たなかったという要因は大きいと思いますね。個人でされていた方の多くが廃業されたことも要因として大きいと思います。そして、時代の流れとともに効率化を目指して機械化も進みましたので、現在枕崎の工場は少なくはなりましたが、全体の生産量としては増えているんです。ただ、先ほど見ていただいた「本枯節」を作る工場はどんどん少なくなっていますね。

 的場水産の生切りの様子の写真

生切りの様子

 

ー「本枯節」の作り方というのは、創業当初から変わっていないんでしょうか。

昔からかわってないですね。鹿児島ではいわゆる「はだか節」「本枯節」がよく売れるんです。もちろん「削り節」はたくさん出回りますけどね。一般家庭で鰹節を買ってきて削って使うものは、「はだか節」「本枯節」で、お土産として贈られるものも同じです。

 的場水産のかつお節の写真

左から、本枯節・はだか節・荒節

 

ー「本枯節」の製造をしていない工場もあるんでしょうか。

あります。そういった工場は「あら節」専門でされているところがほとんどで、今は枕崎のほとんどの工場が「あら節」主体の体制になってきているんです。枕崎で「本枯節」を作っている工場は、おそらく20社ほどじゃないでしょうか。

枕崎でも半分以下になってきているんです。

 

ー「本枯節」を作っているのは、枕崎だけなんですか。

違います。指宿市山川でも作っています。生産量で見れば指宿市山川の方が多いんです。

 

ー山川町は県外出身者が多いと聞いたことがありますが。

そうですね。四国の高知県の方が多いですね。指宿市山川が3割と枕崎市が4割で全国の生産量の7割を占めています。あとは静岡県の焼津市を含めて全国の生産量の9割を占めているんです。

 

ー焼津でも「本枯節」を作っているんでしょうか。

一部で作ってますが、割合はだいぶ少ないですね。鰹節の生産量全体の中では「本枯節」の割合は1割もありあません。

 

ー鰹節自体の消費量の変化は感じることはありますか。

一般家庭での消費としては伸び悩んでいる状況がありますが、飲食店やめんつゆやふりかけ等の加工商品として特に手軽に使える出汁パックの需要は伸びてきています。鰹節がなくなるということはないんじゃないですかね。形を変えて最終的な消費量が増えていく要素というのは大きいと感じています。

 

「手切りの美味さ」にこだわる。

 

ー先ほど見せていただいた製法は、産地によって違いがありますか。

基本的には同じ製法です。ただ、たくさんある工程それぞれのやり方には違いがありますね。切り方や煮込みの時間や温度調節の仕方などです。おもしろいことに、作られた工場が違えば、すべて味が違います。その味の好みでお客さんがついてくださっているんです。例えば、ある料亭では、昔から同じ工場で作られた鰹節を使ってる。料理人の方も味のプロですから、微妙な加減にこだわって、鰹節を選んでいるんだと思いますよ。

 的場水産の本枯節断面の写真

本枯節の断面

 

 

ー先ほど「機械化が進んだ」というお話がありましたが、機械製造と手作業での味の差はありますか。

味は違うと思いますね。手切りで1本ずつじっくりと作った方が味は美味しいとおもいますよ。でも手作業で作るということは生産量にも限界があります。その点は弊社のこだわりの部分でもあります。「手切りの美味さ」が弊社の特徴ですね。

 

ー他にはどのような部分にこだわっていらっしゃいますか。

原料でしょうか。脂肪分が少なく鮮度がいいものを仕入れるようにしていますね。商品の味は原料に左右される部分が大きいです。7〜8割は原料で決まると言ってもいいんじゃないでしょうか。

的場水産本社工場の写真

本社工場外観

ー最後になりますが、今後予定されている取り組み等があれば教えて下さい。

そうですね、あくまでも鰹節の製造工場ではありますが、様々な形でみなさんのお口に入る食品ですから、美味しいものを作り続けたいという思いが一番強いですね。他にも、積極的に加工品や原料としての需要も増やしていけるように、鰹節の価値を高める動きができたらいいと思っています。

 

ー本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

 

的場水産:http://www.futamaru.jp/

 

インタビュー後記:

鰹節の製造工程はいくつにも分かれていて、それぞれの技を持った職人たちがその手技によって、各工程を捌いている。伝え聞いたとおりに「手作り」だ。

そして、今もなお職人の”手”によって伝統の味は進化し続けている。

職人たちの実直な姿勢と懸命の努力が詰まっているのだ。食さずとも感じる深みに触れた。

 

インタビュアー 井上秀幸

ライター 西田将之

『”別格”である理由がたくさん詰まった鹿児島の出汁を試して欲しい。』テスト

山口水産の取締役の写真

株式会社山口水産 取締役・企画開発室室長 山口大悟

インタビュー:2015年2月2日

桜島を望み、鹿児島市街地中心部からほど近いウォーターフロントエリア。
鹿児島市中央卸売市場魚類市場から伸びるように、水産会社が軒を連ねる一角がある。
創業60年を超える水産物卸の老舗、鹿児島県産水産物の価値向上に取り組む、株式会社山口水産。商品開発部門の舵を取る山口大悟さんに、鹿児島の水産物の魅力とその価値を活かした出汁関連商品の開発秘話などをお話いただきました。

奄美大島の漁師さん達だけが食べていた幻の味、本マグロのホルモン。
知る人ぞ知る屋久島産の上質なトビウオ。

ーこんにちは。今日はよろしくお願いします。
早速ですが、まず「山口水産」について教えて下さい。

今年で創業63年になります。私の祖父の代に創業しまして、水産の卸問屋をずっと営んできました。初めは鮮魚の露天商から始まりましたが、現在では水産の冷凍・鮮魚を含めた流通業を行っています。
取扱品目は幅広く、数千から数万品目に達します。お客様によってお取り引き商品はそれぞれですが、特にサーモン・エビ・カニ・マグロといったところが主な商品です。現在は鹿児島県内4営業所に加え、熊本・宮崎・大分を合わせまして7拠点で営業をしています。お取り引き先としては、鹿児島県内外のホテルや百貨店・飲食店・量販店をはじめ、数多くのお客様とお付き合いをさせて頂いています。

ー製造・販売を行う株式会社YSフーズを5年前に設立されたそうですが、製造部門を立ち上げたキッカケは何だったんでしょうか?

流通業としては、商品を仕入れて販売するというお仕事ですが、鹿児島県産水産物をより広く、より価値を持たせた形で流通させていくことを目指す中で、どうしても加工・製造という機能が必要と考えた結果、YSフーズを立ち上げるに至りました。鹿児島県の水産物は「素材がいい」というお話をバイヤーさんからもよく聞きます。その素材の良さをもっと広めたいという思いが大きなキッカケです。光栄なことに賞をいただく機会もありましたが、やはり消費者の需要・ニーズに合った商品づくりを心がけて日々取り組んでいます。

ー「山口水産」独自の商品はありますか?

自社商品としましては離島の水産物がメインでして、「屋久島産トビウオのあごだしシリーズ」と「奄美大島産本まぐろのホルモンシリーズ」を現在は積極的に取り扱っています。
★「奄美大島産本まぐろのホルモンシリーズ」は、「魚の国のしあわせFish-1グランプリ2014 FINAL」でグランプリ(最優秀賞)を受賞!
知らない方も多いと思うんですが、奄美大島は本まぐろの生産が日本一なんです。新鮮な状態じゃないと食べられないので、奄美大島の漁師さん達だけが食べていたという本まぐろのホルモンをご飯やお酒に合う味付けで作りました。
「屋久島産トビウオのあごだしシリーズ」は出汁を中心に大変に好評をいただいています。現在は、鹿児島県外の百貨店さんを中心にギフト商品としての販売を行っています。

山口水産の本まぐろのホルモンシリーズの写真

本まぐろのホルモンシリーズ

山口水産の屋久島のトビウオの写真

屋久島のトビウオ

山口水産の屋久島産トビウオのあごだしシリーズの写真

屋久島産トビウオのあごだしシリーズ

出汁づくりに手間隙を惜しまない。上品な香りと深い味わいを求めて。

ー「あごだし」を作られているということですが、出汁商品を作るに至ったキッカケは
何だったんでしょうか?

3年前に屋久島に事業所を立ち上げました。元々は急速凍結という処理で刺身用の商品づくりをメインに行っていたんです。屋久島には全国でも長崎と並んでトップクラスの漁獲量のトビウオがありますが、長崎に比べると全然知名度がないんです。屋久島で獲れるトビウオは非常に鮮度も良くて、品質の高いトビウオなのに、「なぜ屋久島産のトビウオは知名度が低いんだろう?」と考えた時に、鮮魚流通が大半を占めていたんです。鮮度が良いので刺身用としてしか流通していなくて、地元で加工される、ということがほとんどなかったんです。一方で長崎では地元で製造される加工品やメニューまで幅広くあったことから、知名度を上げるためには何か加工品を作らないといけないと考え、鹿児島ならではの「あごだし」を作ることになりました。ですが、私達は「出汁」については素人でしたので、私達は素材の善し悪しをお話して、山川や枕崎の事業者さんに協力をもらいながら商品化を進めました。

YSフーズのあごだしが買える「南国食材商店」はコチラ

ーあごだしの他に、出汁関連の商品はありますか?

ポン酢と濃縮タイプの出汁と味噌ですね。屋久島の売店さんに置いていただいたり、関東地方の高級スーパーさんでのお取り扱いが始まります。しばらくはこのラインナップで普及を進めたいと考えています。中でも粉末出汁の普及を優先して計画しています。

ー数々の商品を開発・販売されていますが、商品化までのプロセスは大変ですか?

大変ですね。味を決めて、価格を決めて、パッケージを決めて、と半年くらいはかかります。社内会議や商品開発担当のシェフからの進言から始まっていきます。シェフは元々フレンチで、熊本のホテルの総料理長をしていた人間ですので、味に関しては信頼しています。

ー最後になりますが、お伝えしたいことがあればどうぞ。

屋久島で獲れるトビウオは漁の仕方が他の地域とは違うんです。ほとんどが日帰り船で、だいたい朝の6時に獲りに行って、その日の昼12時には水揚げされるんです。2隻で行う囲い込み漁と呼ばれる方法で、生きたままのトビウオを〆て港に持ち帰ります。他の地域では刺し網といって、仕掛けた網を翌日に引き揚げる方法です。刺し網では、初めに獲れた魚と終わりに穫れた魚では、時間差が出てしまうので、鮮度に差がありますし、魚体に傷が付いてしまう傾向にもあります。屋久島で獲れるトビウオは、実際に刺し身で食べられる鮮度なので鮮魚流通していたわけなんですが、”本来は加工品になるべきではない鮮度をもった原料を使った出汁”ですので、雑味も臭みもありません。非常に上質な出汁だと思います。100%屋久島産のトビウオを使っているのがこだわりですね。そして薫製が鹿児島の特長です。他の地域は「焼き」なんですが、薫製の方が圧倒的に香りが良いです。あごだしは元々クセが少なくて上品な出汁ですが、薫製にすることで、旨味と香りが際立つ深い味わいが出ます。是非お試しいただきたいですね。

山口水産の囲い込み漁の写真

囲い込み漁の様子

山口水産のトビウオの薫製の写真

トビウオの薫製

ー今日はありがとうございました。

ありがとうございました。

YSフーズの企業サイトはコチラ

YSフーズのあごだしが買える「南国食材商店」はコチラ

インタビュー後記:
出汁素材の鮮度を保つのに最適な囲い込み漁。出汁の旨味と香りを引き出す薫製。
出汁商品を生み出すまでの生産者の手間隙──。
普段何気なく囲んでいる鹿児島の食卓は、こんなにも血の通ったストーリーに溢れていたのかと、
この日の晩ご飯はいつも以上に「感謝の気持ち」を胸にいただきました。

日本南端で食材にこだわり抜くプロフェッショナル集団の存在を知り、
すっと背筋を伸ばしてみる─。

インタビュアー 井上秀幸

ライター 西田将之

作り手の心配りが凝縮した鶏出汁のスープ、 島のおもてなし料理「鶏飯」。テスト

奄美の里 レストラン「花ん華」 料理長 松尾勝也

奄美の里 レストラン「花ん華」 料理長 松尾勝也

インタビュー:2013年4月16日

南北600キロの広大な県土に605の島を保有し、豊かな自然にあふれた場所、鹿児島。なかでも、県本土から300キロ南へ下った奄美群島は8つの島から構成され、マングローブや特別天然記念物アマミノクロウサギなど珍しい自然や生物、また独特な文化が多くの人を魅了しています。
今回のインタビューでは、鹿児島市内で奄美の魅力を紹介する「奄美の里」のレストラン「花ん華」の料理長 松尾勝也さんを訪ねました。
松尾さんは、長年ホテルでの経験を積み、食を知り尽くしたエキスパート。現在は、奄美の郷土料理「鶏飯」(けいはん)が人気のレストラン「花ん華」で料理長をされています。
そんな松尾さんに、美味しい鶏出汁の取り方と郷土料理「鶏飯」について、楽しくお話をお聞きしました。

奄美大島の郷土料理「鶏飯」。
鶏の出汁をふんだんに味わうことのできる逸品。

ーこんにちは、今日はよろしくお願いします。今回は、出汁の中でも“鶏出汁”に注目したいと思います。昨年、松尾さんは出汁プロジェクトで鶏出汁教室もなさったとのこと、ぜひ家庭での美味しい鶏出汁の取り方について教えてください。

わかりました、よろしくお願いします。それでは、「花ん華」で出している鶏飯での鶏出汁の取り方を基本に、お伝えしましょう。
まず、お肉屋さんで県内産の地鶏ガラを4〜5羽ほど準備します。内臓や血合い、脂などが残っていることが多いので、家できれいに洗い落としてください。ガラ本来の骨から出汁をとる準備をします。
最初に、くさみを抜くために、沸騰したお湯に一回入れ、灰汁をとってください。そして、一度お湯をこぼし、ガラをきれいに水洗いします。
それから水から一気に炊くのです。沸騰すると灰汁が出てくるので、火を弱めてぐつぐつと煮る、骨がくだける程度に。灰汁をとりながら3時間は煮てくださいね。
そうすると澄んだ色の鶏出汁ができます。
なお、鶏飯のスープを作る場合は、鰹出汁を加えます。豚肉でも牛肉でも、やはり、山の幸と海の幸の味をあわせる方が日本人の体には合うようです。出汁を飲みやすくするのですね。
「花ん華」の鶏飯は、奄美大島の地元で作るものと少し変えています。奄美大島の鶏飯は脂が浮いているのが多いので。子どもからお年寄りまで楽しんでいただくために、ここ鹿児島市内では、脂をできるだけ少なくなるように調理しています。かといって、脂を全てとるのではなく、脂に入っているコクとスープが混ざり合うと香りが出てくるので、ちょうど良いバランスになるようにすることが大切。
また、夏場と冬場は鶏飯の作り方を変えるようにしています。たとえば、夏になると脂が欲しくなるし、汗をかいて体内の塩分が少なくなる——、その場合に塩と脂の量を気持ち少しだけ多めにします。風味付け、香り付けをするときは、一年を通して、鶏飯を食されるお客様の身体の状態を見て、すこしずつ変えているのです。
それに気づいたのは、春になると「塩分が濃いのでは?」と、また夏になると「出汁が少し薄いのでは?」と、お客様にご指摘されたことです。出汁の味は一緒なのですが、食されるお客様の身体が季節によって変化しているのだな、と、わかりました。
料理を作っている私たちは毎日味見をして、味が安定していることを確認するのですが、お客様は1ヶ月に一度、または何ヶ月ぶりにレストランにいらっしゃるので、夏場に汗をかくなど、気候や体調の変化でずいぶん味覚が変わるのですね。「料理長が変わったのですか?」とまで聞かれたことがありましたよ。(笑)

奄美の里 鶏飯
奄美の里 鶏飯

作り手の心配りが凝縮した鶏出汁のスープ、
島のおもてなし料理「鶏飯」。

ー丁寧に取られる鶏出汁をたっぷり味わう「鶏飯」、身体にも良く、魅力的な料理ですね。ところで、この「鶏飯」はそもそもどういう時に食べた料理なのでしょうか。

よく言われているのは、奄美大島が島津家の統治下にあった頃に薩摩の役人が島に来られた時のこと。島の生活は困窮していたので、ごちそうを作ることができなかったのです。だから、自宅の庭で飼っている鶏を絞めて出汁をとって作ったのが「鶏飯」だったとのこと。卵は高級な食材でしたが、それ以外の具材は、パパイヤ漬けや椎茸、ネギ、紅ショウガと、とても質素。ただ、彩りが美しいもの選んであるので、ご飯の上に、これらの具材を丁寧にのせ、新鮮な鶏肉からじっくりと取り出した美味しい出汁をかけて「どうぞお食べください」と、お客様にお出しする、それがとても贅沢だったのです。一部では「殿様料理」とも言われていたともお聞きしますね。

当時は、鶏を絞めてお料理に出すというのは、大変なことでした。大事な卵を産んでくれる鶏ですから。それだけ、お客様をもてなしたい、という気持ちでいっぱいだったのでしょう。
しかも、当時、「鶏飯」を作るときは、丸鶏を使って出汁をとり、残ったお肉を割いて盛りつけるという、身の回りにある食材を最大限に使う一品でした。その時代の質素な生活から精一杯の料理を作るという、島の方々の温かさが伝わる料理だと思います。

ーなるほど、鶏飯は島の方の想いの詰まった料理なのですね。また、出汁は、料理の中で、昔から本当に大切だったのですね。松尾さんがお店で出される出汁づくりの細心の気配りをお聞きしてびっくりしました。

実は、毎日安定して美味しく出汁を作るのは難しいのです。よくラーメン屋さんでも納得したスープができないと、お店を閉めることがありますよね。それは本当のあり方なんだろうなとも思います(笑)ちょっとしたことで味が変化してしまう出汁。年中、その味をキープするのは大変。それを、何年も保ち、お客様を惹き付けているラーメン屋さんを見ると、いつも「すごいな」と感心します。
「花ん華」では、週に1回はスタッフに賄いとして鶏飯を出して味を確認するようにしています。特にレストランのホールで働く女性スタッフに食べてもらい、率直に厳しい意見を言ってもらうのです。そうすると、料理人である私たちも気づかない変化を教えてもらうことがあります。

奄美の里 レストラン「花ん華」料理長と常務取締役 藤さん

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出汁のおいしさを伝え、枕崎の街づくりに貢献したい。テスト

中原水産株式会社 常務取締役 中原晋司さん インタビュー

中原水産株式会社 常務取締役 中原晋司

インタビュー:2013年2月17日

鹿児島県薩摩半島南西部に位置し、東シナ海に面する人口23,000人の街、枕崎。鹿児島県は、ここ枕崎市と指宿市山川の2市で鰹の水揚げ量全国有数規模を誇り、鰹節を年間25,000トン生産。これは全国シェアの70%を占めるという。
今回のインタビューは、この枕崎で65年もの間、水産業を営む中原水産株式会社の常務取締役の中原晋司さん。
鹿児島県内の高校を卒業後、東京に進学。外資系の経営コンサルティング会社や新規事業育成会社を経て2008年に帰鹿し、中原水産株式会社へ。長年、県外での生活を経てから、<鹿児島>を改めて見て、驚きにあふれていたとか。インタビュー当日は、海外との商談会に参加し、海外の方に鰹出汁を楽しんでいただく試みを実施。その合間を見て、出汁の魅力についてお話しいただきました。

枕崎の漁師が船上で食べる丼飯からヒントを得た、
絶品の鰹出汁を味わう鰹船人めし。

ーこんにちは、今日はお忙しいところありがとうございます。さて、早速ですが、枕崎に本拠地を置く「中原水産」について教えていただけますか?

ひと言で言えば、「お出汁カンパニー」です。(笑)出汁を楽しむことを、とことんご提供する企業です。鹿児島が「出汁の王国」であるなら、枕崎を「出汁のふるさと」にしたいと思っています。鰹節を街中で生産するここ枕崎で、出汁を存分に楽しむことの出来る「お出汁カンパニー」を目指したいと思っています。
美味しい出汁を身体に取り込む、つまり、本物を取り入れ、心を込めて出汁を創ると本当に楽しいですよね。しかもそれが一日に何度もできると楽しい、そして健康にいい、こんなにいいことはない。
出汁をとることを気軽に楽しめるグッズを開発したりなど、お出汁カンパニーである中原水産は、お客さまのお出汁に関する疑問は解決できるようにしたい、ご家庭で出汁の良さを楽しんでいただければ、と思っています。

ーそこで今日は、海外の方に鰹出汁や鰹船人めしを味わっていただく試みを鹿児島市内でなさっていたのですね。みなさんの評判はいかがでしたか?

今回は、香港、マカオ、シンガポールのホテルのシェフに対し、鰹出汁と船人めしを味見してもらいました。好評でしたよ。いろいろなスープや出汁の味を知り尽くしている一流の方だというのに、うれしいことです。

もともと「枕崎鰹船人めし(以下「船人めし」)は、襖屋さんのおやじが発案した料理なんです。(笑)食をテーマに鰹節で街を活性化したい、と、人口が減少が続いていた枕崎市の街おこしを目指して、2年前に作られました。「船人めし」は漁師が一本釣りした鰹を船の上で血抜きして捌き、ごはんに豪快にのっけて食べることからヒントを得てできたもの。「船人めし」のルールは3つあり、①枕崎の本枯れ節を使う、②トッピングにかつおの切り身を使用する、③かつお節はトッピングにも使用する。そして、基本的には枕崎市の10店舗だけでのみ、食べることができる料理です。それを今回は特別に、海外のお客様に食べてもらえるよう準備しました。

海外の方に鰹出汁や鰹船人めしを味わっていただく試み1

海外の方に鰹出汁や鰹船人めしを味わっていただく試み2

出汁をテーマにした商品を作ったのは枕崎が初めてです。「鰹」自体のアピールはもちろんのこと、枕崎は「鰹節」が一番の街、だから「節」をメインにしたい、そんな想いがありました。鹿児島市内で「船人めし」を提供するお店はありません。枕崎でのみ提供できるように、厳しく品質管理をするようにしていますから。

ー先日1月27日に鹿児島市の天文館で行ったフォーラム「『Umamiを巡る冒険?鹿児島の豊かさはここにある』」がありましたね。その中で、今後の出汁の普及の展開案として、出演者より提案がありましたが、いかがでしたか?

コーヒーの煎れ方と出汁の作り方の比較をされた、あれはよかったですよね。実はワインバーなどに行くとワインと比較をしたりもするんです。香りや味わいを楽しむ部分が、まさに出汁とワインで一緒なのです。
コーヒーとワインといった、海外の文化が日本に入ってきて浸透したことがヒントとなって、日本から海外へも出汁をとることはいいことなのだよ、と表現をしてみる。こちらから、海外に伝えていかないと行けないですよね。

フォーラムではいろいろな気づきをもらえました。コーヒーのような他の食品との比較が出来たのは面白かったです。例えば、鰹節は発酵食品なので、チーズや納豆とかとも比較ができるかもしれません。チーズのスライサーは鰹節の削り機とそっくり。ヒントはいろいろなところにあふれているので、他の世界とつなげて表現していくこともできますね。また、チーズや納豆と同様、鰹節はアミノ酸の宝庫です。元気になるし、肥満防止効果があるらしいです。旨味を味わうことにより、味覚が満たされて減塩の効果もあり、健康にいいですね。

鰹節を削るということに関しても面白い結果が得られています。先日、東京で催事をしたときに鰹節削り器が意外に売れたんです。購入者の多くは30代の女性。この世代のお客様は、先入観がなく、本物志向なんですね。鰹節を削ることの良さを知り、削り器が便利であるとわかって購入してくださいました。ということは、鰹節の種類もわからないし、削りかたも削り器もわからない、出汁の取り方もよくわからない、という方が多いなかで、それを解きほぐす様なことをすればかなりの方が興味を持ってくださるのではないでしょうか。 コーヒーでも以前はインスタントばかりでしたが、最近は豆から挽く人が多くなりましたから、出汁もその良さを知れば、鰹節を削って出汁をとる人が増えてくるのでは、と思っています。

これは食産業でなく知識産業。
出汁をとる楽しさを味わえるように。

ー実際に、中原さんご自身で出汁をとったり、ご自宅で実践されたり、気をつけていることはありますか?

無理せず、出汁をとりたい時にとる、という感じですね。(笑)あまりこだわりすぎないこと。例えば、わたしもカップラーメンは食べます。でもそのときに、本枯れ節をちょっと加えると豪華なカップラーメンになりますよ。
また、わたしも化学調味料をつかうときもあります。毎回、鰹節を削って出汁をとるわけではありません。こだわるときはこだわる、日常の中でちょっとだけでも本物の出汁を味わうように気をつけています。化学調味料を否定しているわけではなく、共存する、本物があるということを知っていることが大事だと思います。

実は、出汁というのは食品産業ではなく“知識”や“教育”産業ではないかな、と思っているのです。伝えるひとを育成すること、コンテンツや教材が大切なのではないのかと。出汁をとることが「楽しい」と思ってもらうような仕掛け作りとか。

ーでは、さっそく私が基本からお聞きしたいのですが(笑)、本枯れ節など「節」の名前をよく聞きます。鰹節にはどんな種類があるのでしょうか?

単純に言うと、「本枯れ節(ほんかれぶし)」と「荒節(あらぶし)」、そして「生利節(なまりぶし)」この3種類だけです。
工程で言うと、鰹をゆでて冷ましたものを「生利節」といいます。水分がたっぷり入って柔らかい鰹節。切って角煮にしたり、そのまま白いご飯と食べたりするものですね。
その生利節を、煙で燻すと「荒節」になります。見た目は黒い鰹節で、2~3週間でできる普通の鰹節です。この荒節の表面を削って、麹菌(カビ)を加え、日に干したり、カビ室に入れたりを何度も繰り返すと、「本枯れ節」になります。なので、「荒節」と「本枯れ節」の違いは発酵しているか、していないか。水分もかなり減っていて、世界で一番固い食べ物だと言われています。

出汁をとる時に使うのはこの「荒節」と「本枯れ節」です。「荒節」は名前の通り、煙のにおいがぷんぷんして魚臭いのが特徴、本枯れ節は発酵させることによって煙臭がなくなって、うまみが熟成します。本枯れ節は鰹節の最高級品です。

ー本枯れ節と荒節、具体的に料理ではどのように使い分けるのですか?

本枯れ節は、出汁で一本勝負だけど、あまり主張させたくないときに。例えば、京都の料亭の最後の澄まし汁や茶碗蒸しなど。出汁を感じるけど、すっきりとした味わいのものですね。荒節は、その名の通り荒々しく出汁の味を出したいときに使いますね。例えばお味噌汁やおでんなどは、荒節でもいいですよ。そして、関東ではお蕎麦の出汁によく本枯れ節を使っていますね。お蕎麦の味を邪魔しないで、鰹の純粋な味をだしているので。

鰹節から出汁を取る写真1

鰹節から出汁を取る写真2

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出汁は、味の豊かさを知る、人生の楽しみテスト

さつま麺業株式会社 代表取締役社長 山下大介さん インタビュー

さつま麺業株式会社 代表取締役社長 山下大介

インタビュー:2012年12月20日

2011年冬、鹿児島の食をとりまく作り手や有識者たちによって、あらゆる料理の基本である「出汁」をテーマにした新しい試み『「出汁の王国・鹿児島」プロジェクト』(以下、出汁プロジェクト)が誕生しました。
このプロジェクトは、食の知識人や料理人から、農家や漁師、加工業、そして家庭で料理をされる方まで多くの方たちとつながり、鹿児島で作られる豊かな食材を暮らしに活かし、その魅力を広く伝えていきます。

インタビュー第一弾は、出汁にこだわり、鹿児島の食材を知り尽くす山下大介さん。40年以上も地元鹿児島の飲食業界で活動し、この出汁プロジェクトを牽引する実行委員会委員長でもあります。そんな山下さんに、この出汁プロジェクトについて、また鹿児島の「出汁」の魅力などをお聞きしてきました。

数々の文化が交差した歴史と豊富な食材、
上質な食文化が花開いた場所、鹿児島。

ー昨年、鹿児島で誕生した「出汁の王国・鹿児島」は、食材の豊富なこの地域ならではの非常に興味深いものです。ぜひこのプロジェクトが立ち上がったきっかけを教えてください。

まずは、私自身の気づきからお伝えしますね。ラーメンを家業としていて、鹿児島のラーメンは他の県より高い、と、お客様から言われます。自分たちが儲けている訳ではないのにどうしてだろう、と考えたときに、麺や野菜などの具を多く使っていると同時に、特にスープにコストがかかっていることに気がつきました。
出汁の材料は、まず豚骨。そして鶏です。鹿児島ラーメンは豚骨スープと思われがちですが、半分は鶏スープです。しかも、鶏ガラだけでなく丸鶏(鶏を一羽そのまま)使った濃いスープが好まれます。そしてさらに本枯れの鰹節やその他魚介、昆布や野菜のエキス等本当にたくさんの食材で作った出汁を組み合わせて基本となるスープを作り上げていきます。
豚骨に鶏、椎茸や昆布等、実は鹿児島には数種類の出汁があるのです。鹿児島の出汁は、元々あった鶏ガラの旨味を楽しむ県民性に、豚骨の文化が流れ込んでいる。だから両方必要。そして、食材の豊富な土地柄から植物性の出汁も取り入れる。つまり鹿児島のラーメンはたくさんの種類の出汁を使った「旨味のごちそう」ということなのです。
鹿児島は食材の宝庫であり、豊富な種類の出汁の文化がある、これは日本にとっても、また世界的にも注目されている特徴なのでは、そう気づき、これを活かしたプロジェクトをしよう、と思ったのです。

ーそんなにたくさんの材料を使っているとは知りませんでした。鹿児島は独特なのですね?

さつま麺業株式会社 代表取締役社長 山下大介さん

鹿児島は、フランシスコ・ザビエルや鑑真和上の上陸、鉄砲の伝来、また黒船も浦賀に着く前に鹿児島を訪れているという歴史が有り、日本を目指したすべての人や物が島づたいに鹿児島を経由する——、それが太古から続き、繰り返しています。
そういった食を含めた文化の交流地点でありながら、鹿児島は食材の大産地であることも相まって、特別な食文化ができました。
鹿児島は地元での収穫・生産量について言うと、鶏は日本一、鰹節は国内3大産地のうちの2つ(枕崎、山川)が県内にあり、豚も日本一の産地と良質な材料が揃っています。また、お水も、生産量・購入量ともに実は日本一です。雨も多く、火山灰のシラス台地で良い水が採れるというわけです。

—そのようななかで鹿児島では子どもの頃から美味しいものに普通に触れていて、ぜいたくな環境にある、という発見がこのプロジェクトの発端ということですね。

そうですね、それがひとつ基本であり、また世の中が便利なものから「食を見直す」時代になってきている、ということも大事な理由です。口にするものが手作りであることや、また食事を作る時間そのものを楽しむこと、日本人が得意とする食べ物、または食をともにする家族へ感謝することなど、それらをつなげるひとつの代表的要素が「出汁」だと思っているのです。
ぱぱっと簡単に作れる化学調味料も便利だけれど、コトコトと時間と手間をかけて旨味を取り出して作る出汁をいただいて、「おいしいね」「やさしいね」と旨味や香りを語らう。レベルが高い料理を作るのでは技術が必要ですが、出汁ならきちんとやれば誰でも作ることができる、料理の基本です。
また、おいしさというのは、教育ともつながります。旨味をきちんとわかる、この旨味の素材は椎茸だね、鶏だねと、香りや奥深い味わいを感じること、それは人生の楽しみを学ぶことだと思うのです。身の回りのいろいろなことを感じるようになり、そして健康にもなる、そういうことなのです。

一方で、現在、鹿児島の食はとても特徴が有るのですが、それに気づいていない、またその魅力をうまく表現できていないので、「出汁プロジェクト」を切り口に食の豊かさを伝えていきたいと思っています。さらに、旨味は「Umami」として世界の料理人が取り入れていて共通語になってきている。それに香りを楽しんでより豊かに食を感じることができれば——、「出汁プロジェクト」は鹿児島だけではなくて、すべての人に恩恵のあるプロジェクトだとも思います。

さつま麺業ラーメン

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